第9話  アンナレッタ、誘拐される

西域には、三つの古王国があった。

 人類の文明の発祥は大陸の西岸のヴァーレンであると考えられており、聖なる光の神の信仰は東方から広まった。


 ヴァーレンや、他の古王国にもロイルの信仰は広まりつつあって、現当主のアンドレアとヴァーレンの姫、ジオレッタ姫の婚礼となったのだが、今回ばかりは失敗だったと、神殿の神官達も頭を抱えていた。


 古王国の1つ、ドーリアの王都アスタナシヤに銀の森から、西域への足掛かりになる魔法陣が設置されていた。


 ドーリアと聞いて、リカルドは変だと思った。

<ドーリアは、百年前に滅んだはず……>


 アンナレッタは、こんな長距離の旅は、生れて初めてだった。

 サヤが一緒に来てくれたから、行く気になれたのだ。

 ロッソだったら、舌を出して部屋に籠っただろう。


 旅には勿論だが、リカルドもついて来ている。

 サヤの風の精霊のお嬢が(どう見ても下位)なのだが、リカルドにあれこれ話しかけるのだが、リカルドはアンナレッタの頭上でダンマリを決めている。


 <も~~!! いけずね~~!!>


「悪い、悪い。お嬢、風の騎士は生まれて間もなくて、自分の事が分かってないんだ」


<分かってるよ。俺は、砂漠のオアシスの出身だからな。なんで、滅びたはずのドーリアがあるんだ?>


 リカルドは、アンナレッタに疑問をぶちまけた。


「??」


 アンナレッタは馬の上でキョトンとした。


「ドーリア王国は嫌みなルース叔母上の嫁ぎ先だ。勝手に滅ぼすんじゃない!!」


 その時になって初めてリカルドは、この時代が自分の知る時代ではないことを知った。


「リカルド? どうした?」


<い……今はルナシエ歴何年だ?>


 アンナレッタは、困った。暦は存在するがそんな暦は聞いたことが無い。


「星暦千五百八十年だ。ルナシエ歴なるものは知らないな。お前のいたオアシスではそれを使っていたのか? ってか、お前は人間だった頃の記憶があるのか?」


 リカルドは頷いた。


 <星歴……大陸を襲った厄災で、魔族がいなくなるまで使っていた暦だ。厄災が来たのは千七百年後半だから……五百年も飛ばされてきたのか>


「リカルド? 何を言っているんだ?」


 <いや、嫌な予感がする。引き返した方が良くないか?>


 リカルドはあまり西域に近付きたくなかった。


「契約精霊が何を言ってるんだ? 意気地のない奴だな。契約者を守るのが、精霊の役割なのに」


<俺にお前が守れるのか?>


「守れ!!」


 相変わらず、人間臭いことを言うリカルドに𠮟咤激励するアンナレッタである。



 北上して、7日後だった。

 アンナレッタは、リカルドの声で目が覚めた。


<アンナ!!>


「リカルド……どうしたんだ……?」


 <サヤがお前を迎えに来たという、人について行ってしまったんだ。

 その後で、お前の事は私達で見ていますから……って奴らの手で、お前誘拐されたぞ!!>


 たしかに、野営地にいたのに小屋の中だ。


「起きたかい!? ウィルヴィール皇子」


 知らないおっさんの声だった。


「ウィルヴィール!? 誰!? それ!?」


 アンナレッタは縛り上げて、転がされていた。

 悪人面のおっさんは、変な目でアンナレッタを見た。


「ウィルヴィール皇子だ……ですよね?」


「私は、アンナレッタ・エル・ロイルだ!! 誰と間違えてるんだ!?」


「皇子ではない?でもその姿は……」


 誰かと勘違いされたようである。

 ムカついたアンナレッタは、大きな声でリカルドを呼んだ。

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