第8話  アンナレッタ西域へ

「ヴァーレンヘ!? 私が行くのか?」


「お母様のジオレッタ様がご病気だそうです。お見舞いに行かなければ」


 風の精霊、リカルドと契約して1カ月がたち、季節は夏になろうとしていた。


「気が進まないなぁ……母上だろ」


「アンナ様のお母様ではないですか」


 サヤはそう言うが、こちらは大切にされた覚えもないのに?

 頭を撫でられたことも、抱き締められた覚えもない母の見舞い?

 アンナレッタの心は、複雑だった。


「ともかく、明日には、アスタナシヤまで、神殿の魔法陣で移動します。

 後の移動は馬です、今日は早くお休みになって下さい」


「サヤが一緒に行ってくれるのか!?」


 アンナレッタの顔がパッと明るくなった。


「勿論ですわ」


「なら、いいや。分かったよ。行くよ」


 アンナレッタは不承不承、承諾した。


<アンナ、ヴァーレンの血が流れてるのか?>


「うん、母上の里だ。何か気になることがあるのか? リカルド」


<いや、ちょっと……>


「それより、風の力を引き出す練習をするぞ!! おまえの力を引き出せなければ、私の魔力が無駄になると思え!!」


<~~>


 アンナレッタの強気の言葉にリカルドは何も言えなくなった。

 リカルドはまだ、現状を受け入れられずにいたのだ。


 このひと月、アンナレッタと組んで、風をおこす練習に明け暮れていた。

 なにせ、生まれたての精霊のリカルドである。

 精霊の常識というものを知らない。


 それでも、そよ風くらいは直ぐに出来たし、風の強弱もすぐに覚えた。

 基本的な事が一通り出来るようになると、アンナレッタは自分を飛ばせてみろと、とんでもないことを要求してきた。


<無茶言うな~~>


「無理じゃないさ。お前が私を押し上げてくれる風を送ってくれれば、私がそれを捕まえるだけだ」


<風の精霊は、風さえ吹かせてりゃ良いだろうが!!>

「お前、馬鹿なのか!? それじゃ精霊使いの存在意義がないだろ!!>


 いつもこんな会話を繰り返していた。

 アンナレッタは、リカルドを気に入っていた。

 未知数の力を持って、人間臭いリカルドが好きだった。



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