第22話 今までのは憧れ

 どうやら二人は知り合いみたいだけど、その関係性まではわからない。

 シーちゃんもお母さんを前にして怯える様子もないし、その逆も然りでお母さんもシーちゃんを見て怯えている様子はない。というより、この二人のオーラがとんでもないんだけど。


「それに比べてユーシスは……はぁ……」

「おい姫、今のため息はなんだ。どうせこの二人はこんなに凄いのにユーシスだけは、の時のため息だろ! そうなんだろ! この堕落姫」

「今、なんて言った?」


 私は静かに怒りを露わにする。

 どう考えても聞き捨てにならない発言をしたユーシスに怒りがすぐそこまで込み上げているからだ。


 そんな私の表情を見たユーシスはまるで子供のようにさらに挑発してくるではないか。


「そうやってすぐキレるとこ、何とかした方がいいぞ。このままじゃいつまで経っても婚約相手が見つからない、かもな! はははっ!」

「ねぇユーシス、私が婚約できないって言ってるのかしら。きっと私にもいつか白馬の王子様が迎えに来て――」

「来るわけねぇだろ!」

「娘ながらありえません」

「厳しいかな」

「みんなもしかして私のこと嫌い? そんなに否定しなくても」


 そんな私の言葉に反応してか、お母さんが私の頬を両手で挟んだ。


「リーゼ良く聞きなさい。あなたに男を見る目がないのは明らかよ。マキアスはどうだった? あなたを裏切った挙句、殺そうとしていたのよ。あなたはそんな男と婚約するつもりなの」

「け、けど……たまたま今回は、みたいな」

「大丈夫よ強がらなくても。あなたは賢い子だから自分でもわかっているのでしょう? ここはお母さんに任せて、あなたは姫として立派に成長していきなさい。いつでも王位を継承できるように」

「私は子供じゃない!! ま、待って! お母さん今のはどういうこと。王位を継承って」

「まだ詳しくは話せないの、どうかわかってちょうだいリーゼ」


 王位を継承? 

 国を追放され、おまけに継承権を剥奪された私が? 

 ありえない、すべて父上の一存で決まったはず。


 でもお母さんは『まだ詳しく話せない』って言ってたし、なにか策でもあるのかな?

 それとも……いや、まさかね。城に乗り込んで王位を奪うなんて強行はさすがにしないよね?


 もうお母さんがなにを考えてるかわからなくなってきた。もう頭の中がぐちゃぐちゃだよ。


 見に覚えもない罪で王族から追放された挙句、継承権を剥奪され、実はネムの正体が幼い頃に亡くなったはずのお母さんだったとか、マキアスさんに対する私の好意の隙をついて捕らえようとしてくるとか、おまけに目の前には兵達の死体が転がってるとか。


 いったい、私の人生ってなんなの?


 何をするために生まれてきたの?


 私の周りで普段起きないことが起きてるせいで、何もかもぐちゃぐちゃだよ。


 そうこう考えてる私の目からは涙が溢れた。


「姫……なぁ姫お前の気持ちを理解してるとは言わない。けどな、お前の側には俺はもちろん、こんなに頼もしい仲間がいるじゃないか」 

「何が言いたいの? 私は不幸者でしょ。普通の人ならこんな経験せず幸せに生きていける。なのに何で私は――」 

「不幸じゃないさ。事実そうだろ? 死んだと思ってたお前の母さんもこうやって生きてた訳だし、考え方を変えてみれば、お前は誰にも経験できないようなことを経験してるってことだ」

「でもこんな経験したって……」

「あまりメソメソすんなよ。いつものお前はどうした? 能天気でお調子者のお前はどこに行ったんだよ! みんなお前のことが好きだからここまでしてるんだ。そんな好きになったお前が変わっちまったらみんなどう思うんだよ!」

「ユーシスは私のこと好き?」

「好きに決まってんだろ! 好きじゃなけりゃ幼い頃から一緒に遊んだりなんかしねぇよ!」

「そうなんだ、ふーん」

「なんだよ? その顔は」


 ユーシスの素直な気持ちを初めて聞いた気がする。素直にものすごく嬉しい。

 でもこんなにも真っ向から好きだって言われるとどうも落ち着かない。心臓の鼓動がさっきより速くなってる。


 今まで私はマキアスさんに好意を寄せていたはず。


 なのに、なのにどうしてよ!


 その時、私はふと理解した。

 マキアスさんに今まで抱いてきた感情は好意というより、憧れだったのだと。初めて出会った時も、森の中で助けられた時もこんなドキドキは感じなかった。それは間違いなく憧れからのものだった。


「ありがとう、ユーシス」


 なんて言ってみたけど、まともにユーシスの顔が見れないなんて。

 こんなにドキドキすることって本当にあるんだ。

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