第21話 傭兵

 みんながいる場所に戻ろうと思ったけど、ここ高すぎてこれじゃ降りようにも降りれないじゃない。

 無理だ、この高さ絶対に無理。


 はぁ、魔法の才がないのは本当に酷というか、自分で言うのもなんだけど。

 でもこういう時に魔法を使えたらなぁなんて考えるけど、なんでお母さんは使えて私には使えないのよ。そう思う可哀想な私でした。

 冗談はさておき、降りる方法だけど……。

 

「リーちゃんそろそろ降りようか?」

「えっ! 降りれるの? なんて便利な身体能力。私もそんな能力欲しかったな」

「だったらワタシが鍛えてあげようか?」


 私は首を横に何回も振った。

 だいたい相手から『鍛える』なんて言葉が出てきた時には、大変なことになる。


 今まで年中城の自室にこもりっぱなし、万年運動不足な私が、激しく身体を動かしたあかつきには、至る所筋肉痛に襲われ一歩も動けなくなる自信しかない。そんな自信捨ててしまえ、と普段から身体作りしている人達は思うだろう。

 だけど普段から身体作りをしていない、動かない人にとっては、動くこと自体がそもそも面倒で地獄の試練と一緒なのだ。


 おまけに精神的苦痛もあるしで、本当に最悪。

 こんな言葉を口にした時には、お母さんになんて言われるかおおよその予想はつく。

 ずっとネムとしてしつこく言われ続けてきたし。


「う~ん、遠慮しとくね」

「そう……」


 シーちゃんは悲しそうにうつ向いた。

 こんなことで落ち込むって幼いにも程がある。

 自分も言えた義理はないけど……。


「わかった、わかったから! だったら時間がある時にでもお願いするね」

「ホントに! まぁワタシが鍛えれば、人を殺せるほどには成長すると思うよ」

「さり気なく怖いことを言ってる気が……」

「じゃあそろそろ降りようかな。リーちゃんのお母さんも待ってるだろうし」

「うん」


 私はシーちゃんに抱えられ、峡谷の下へと移動した。そこにはお母さんとユーシス、そして兵達の死体の山。しかし周囲を見渡すもマキアスさんの姿はどこにも見当たらない。


 どういうこと? 


 普通に考えればあの煙の中、何者かが救援に駆けつけマキアスさんを連れ去った。


 それとも峡谷を独りで抜けたの?


 でもその線は薄い。

 煙が充満していたとはいえ、ネムいやお母さんが容易く見逃すはずもない。


 ユーシスだってそうだ。

 自分ではバカだのアホだの自虐しているけど、実際はそれなりに教養はあるし、戦力としても申し分はない、はず……。


 そうでもないと王族である私の従者になれるはずがないのだ。


「良かったリーゼ無事だったのね」

「うん」

「シズクあなたにも感謝しないとね。わざわざ駆けつけてくれて感謝しているわ。それに、あなたの雇い主にもね」

「う~ん、何のことかな? たまたま通り掛かったから助太刀に入っただけなんだけどね」

「今回はそういうことにしておきましょう。でもあなた自身はあまり変わっていないようで安心したわ」

「そうだね、傭兵は金と誇りで動く者だから。感情なんて二の次。ワタシ達【堕鬼隊ダッキタイ】は相応の評価をしてくれる人間には忠義を尽くすけど、そうじゃない人間にはわかるよね? リーちゃん」

「わ、私!?」


 お母さんは私を庇うかのようにシーちゃんと私の間に割り入った。


「そんな怖い顔しなくても……リーちゃんには手を出さないから安心して。ワタシ結構この子のこと好きみたいだし」

「なっ!? あなたに娘は――」

「やらないでしょ! わかってるからそんなの。単にワタシを高く評価してくれたのが嬉しかったからだよ」


 お母さんの口からはそれ以上の言葉は出なかった。

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