第20話 それが選択

 今、私が目にしているのは、王国を揺るがす事態にも発展しかねない光景なのだ。


 私と同じ金色の髪、透き通った青い瞳、でも私と少し違うのは耳の形だ。お母さんの耳先は尖っていて、耳たぶには幼い頃私が手作りした不格好なピアスを着けていた。


 でも私にとっては、嬉しくもあり、少しばかり悲しい。本当は最初から知っておきたかった。


「お母さん? 何で……」


 私はお母さんにそう聞いた。

 

「リーゼこうやって素顔を会わせるのは、まだ小さかったあの時以来ね」

「何で黙ってたの? 素顔を隠してたの? ずっと側にいたのに……側にいたのになんでよ!?」

「……そうね、あなたの気持ちもわかるわ。でもねどうしても――」


 お母さんが何かを言いかけたその時だった。

 マキアスさんは傷だらけの身体を大剣を支えにして立ち上がったのだ。


 それを見たお母さんはすぐさま身構える。


「女王陛下……が、なぜ?」

「なぜ、とは? ああ、そうでした。あなた方はわたくしを暗殺した、張本人ですものね」

「こんなことあってたまるか! 女王陛下は確かに亡くなったはず! 息を引き取るのも、火葬で焼かれるのもすべて見てきた! なのに……」

「残念でした。わたくしはそんなやわでもなければ、娘がしっかりと成長するまでは、呑気に死んでる暇はないもので。たとえ死神がわたくしの命を刈りにきたとしても」

「そう、ですか……」

「それにあなたは少々邪魔ですね、騎士団長マキアス。この際、首を落として差し上げましょうか?」


 お母さんは血で染まった剣を拾う。

 そしてマキアスさんに向けたのだ。


「娘の感情を弄んだ挙句、殺そうとするとは言語道断」


 そう言ったお母さんは剣を高く振り上げた。

 

「待って、お母さん!!」

「リーゼどうかしたの?」

「マキアスさんを殺さないで! お願い!」

「なぜ? マキアスはあなたに対して酷いことをし一人よ。あなたを裏切りもした張本人。生かして置く意味は」

「私はお母さんのそんな姿見たくない。マキアスさんが死ぬ姿も見たくないの!」


 そう言った瞬間だった。

 私の足元に転がってきた謎の球体。

 これは……、


「リーゼ!!」


 そんなお母さんの叫び声と一緒に聞こえたのはプシュという音。謎の球体からはモクモクと白い煙が放たれたのだ。

 周りが見えなくなる煙に私はすぐさま口を抑えた。この行動が意味が無いあるのかはわからない。

 でもとっさに身体が動いたのだ。


「少し移動しようか」


 私の耳元で聞こえる小さな声。

 その声と同時に私は誰かに抱えられた。

 煙で顔は見えないけど、その人は私を抱えたまま足場のない崖を容易く跳躍しながら登っていく。

 そして煙を抜け見えたのは、


「あなたはさっきの」

「そうだよ、見てくれてたんだね。一応、君だけ抱えてここまできたけど、大丈夫だったかな?」

「ええ、でもお母さんは? それにユーシスとマキアスさんは?」

「恐らくあの煙に害はないはずだよ。どんな目的があったかは、煙が止んだらわかるんじゃないかな」


 私と隣りにいる謎の女性は崖の下をずっと眺めていた。時間が経つにつれ、広がっていた煙は風に流された。

 周囲の見晴らしもだんだんと良くなっている。


「シズク様、周囲を偵察しましたが異常は見受けられません」


 声の方向を見ると、布で素性を隠した男性の姿があった。

 いつの間に? とも思ったけど、そんなことをいちいち気にしていては埒が明かない。


 ネム、いやお母さんが気づいたら私の背後にいるのと同じで。

 

「そう、ご苦労さま」


 報告を終えた男はすぐさま霧のように姿を消した。


「すごい……」

「姫さん? リーゼちゃん? それとも姫様って呼んだほうがいいかな?」

「えっ? 私のこと?」

「この場にいるのはワタシと君だけなんだけどね」

「ごめんなさい、私のことは好きに呼んでください」

「そう、姫は堅苦しいし、リーゼって呼び捨てにするのも良くないかもだし、だったらリーちゃんって呼ぶことにしようかな」

「別にいいですけど、そんな感じで呼ばれたことないからなんか照れるなぁ。だったら私はシーちゃんって呼んでいいですか?」

「いいよ、因みにワタシに畏まる必要はないからね。じゃあこれからよろしく、リーちゃん!」

「うん! よろしくシーちゃん」


 自己紹介も終わったけれど、下の状況はどうかな?

 煙もなくなってきたみたいだし、そろそろみんなと合流しないといけない。

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