第19話 決着

 マキアスさんの斬撃を華麗に受け流したネムは、すぐさま背後に回り込んで背中を斬りつけた。

 しかしマキアスさんは笑みを浮かべながら、まるで分かっていたかのように大剣を背後に回し軽々と受け止めたのだ。

 

「我は姫様の従者。争いがどうとか我にはなんの関係もありません」

「この争いをあの女が起こした根源だとしてもか!」

「ええ、我は姫様さえ無事であれば、それでよいのです」

「チッ! どこにそこまでして守る要素があるんだ、あの女に!」


 マキアスさんはネムの剣を弾き返し、ネムに重い斬撃を繰り返す。

 しかしネムにはそのような攻撃一切通用しない。


 私からしたら力量は互角にも見えるけど、どうもネムは本気を出していないような、そんな気がする。

 

「姫様は必ずやこの国、ラルフ王国を変えてくださると信じているからです。確かに姫様は歴代の王と比べれば至って普通なのかもしれません。ですがその普通こそ民は求めているのです。身分や見た目の違いで差別をしないそんな姫様を――」

「なにが差別だ! 民が求めているだ! ふざけたことをぬかすな!」


 二人は一旦距離を置いた。


 マキアスさんは前に大剣を構えたまま、ネムに勢いよく走り出す。

 ネムは持っていた剣を真っ直ぐ水平に投擲した。

 マキアスさんは瞬時に方向を変え、岩壁を強く蹴り、大きく上空に跳躍する。


「これで終わりだ!!」

「フフフッ!」


 不気味な笑い声、それはネムのものだった。


「我がなにも所持していないと油断しましたね」

「な、なに!?」

 

 その言葉にマキアスさんは驚いた様子だった。

 しかも跳躍してしまっている以上、魔法が放たれたとしても避けようがない。そしてネムの右手にはキラキラとした小さな青い粒のような物が集まり始める。次第にその小さな粒は物体にへと形を変え、氷剣へと姿を変えた。


「だろうと思ったよ、ネムの奴やっぱり手加減してたか」


 そう言いながら私と背中合わせになるユーシス。


「それってどういうこと?」

「いやぁ、それがな訓練中にもネムとマキアスが手合わせした時があってな、そん時のネムはあっさりと降伏したんだよ」

「えっ? あのネムが?」

「ああ、でもなどうも本気出してないようだったし、訓練が終わってから聞いてみたら『姫様が危機的状況でもないのに、なぜ我が本気を?』と逆に聞き返して来たんだよ」

「確かにネムらしいわね」

「そうだろ、だから姫は覚えとかなきゃいけない。ああやってネムが本気を出しているのは、全部姫のためだ」

「うん……」


 ネムはいつも私を大切にしてくれている。

 楽しい時は顔は見えないけど一緒に笑ってくれる、悲しい時はいつも側で寄り添ってくれる、私が判断を迷った時は助言をしてくれる、悪さをしたり自分を見失った時は叱ってくれる。


 そんな私が今、ネムに対してできることは、


「ネム頑張って!!」


 私はお腹に力を入れ、今精一杯出せる声を出した。


 ネムはそれに答えるかのように、


「姫様が我を心配しているようですので、そろそろ終わらせるとしましょうか」


 ネムは瞬時に氷剣を構え、マキアスさんは大きく大剣を振りかざした。


「死ねやあああ!! ネム・エドワーズうううう!!」

「さらば」


 二人の目にも止まらぬ斬撃が交差した。

 ネムの氷剣は手から小さな粒となって消え、マキアスさんは振りきった状態で静止している。


 どっち、どっちが勝ったの?


 そして先に口を開いたのは、


「バカめ、ネム・エドワーズ! そんな半端な魔法剣で勝てるとでも!?」

「バカはあなたです、マキアス。我は言ったはず『さらば』と」

「ハァ? なにを――ぐはっ!」


 小馬鹿にしていたマキアスさんの大量の吐血。

 さらにはネムの氷剣は鎧を貫通していたようで、身体の至る箇所からまるで噴水のように血が噴き出した。


「あ……の一瞬で、どう……やって……」

「はぁ仕留め損ないましたか。それにあなたの問に答える義理はありません。ですがあなたもなかなかのものでしたよ」


 そう言ったネムの甲冑には小さなヒビが入っていた。そのヒビは次第に亀裂が大きくなっていき、最終的には粉々に砕け散った。

 ネムの甲冑の下は誰しもが気になっていたこと。

 ユーシスもマキアスさんも、そして私自身も。


「嘘でしょ……」


 私の口からつい漏れた言葉。

 どう考えても信じられない光景が、今、私の目の前で起こっていることは明らかで、驚きのあまり誰しも声を上げることができなかった。

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