第17話 襲撃

 そして翌日の早朝。


「姫様お時間です」

「う~ん、もう朝? ってここどこ?」

「峡谷のド真ん中だよ。なに寝ぼけてんだ」

「そっか……そうだよね」


 私はうつ向いた。

 こんな泣いた顔二人に見せたくない。

 地面に一粒、また一粒と涙が頬を伝って流れ落ちる。


「姫様…………」

「ううん、ごめん。なんでもないから」


 ネムは私を優しく抱き寄せた。

 そして頭を撫でると、


「お辛いのかもしれませんが、今が姫様にとって踏ん張る時です。それを乗り越えた先にきっと幸せな日々が待っていますから」


 私は頷きながら鼻をすすった。


 そう、ネムの言う通り今が私にとって踏ん張る時であり、一生で一度の試練なのかもしれない。

 本当に女神様がいるのなら、なんで私にこんな酷な試練を与えたの?


「おい、ネム少しばかりマズくないか」

「そうですね、どう対処しましょうか」

「二人共なんの話をして――」


 私が二人に問いかけたその時、


「マズい、矢が飛んでくるぞ!」

「姫様は我の後ろに」


 私はすぐさまネムの後ろに移動した。

 

 ユーシスは慌ただしくしている私達の前に出て、腕に装着している盾を構えた。


「ネム一応剣を構えてろ!」


 そのユーシスの言葉にネムは静かに頷き、鞘から剣を抜いた。おそらく大量の矢が飛んでくるのを想定した上でのことだろう。


 もしユーシスの盾で防ぎ切れなかった矢をネムが剣で対処する、でもそんな上手く行くのかな。

 ネムの後ろにいれば安全だとは思うけど。


「ここで鍛錬の成果を見せてやる。〈物理防御盾フィジクスシールド〉!」


 ユーシスの前に突如として巨大な光の盾が現れた。


 私達に向かって飛んでくる矢は次々と盾に弾かれ地面に落ちていく。しかし矢の嵐は一向に止むことはなく、移動するのもままならない。


 急いで峡谷を抜けるっていうのもありだけど、矢が私達目掛けて正確に飛んで来るということは、正確な位置を探知する魔法か、それとももうすでに包囲されている状態なのか。


 しかし背後には誰もいない。


 ユーシスがシールドを展開しながら走れるのなら……可能性はある。


「ねぇネム、背後は取られていないようだし。ユーシスが盾を展開しながら走れるなら――」

「姫様の仰りたいことはわかります。ですがそれではユーシスの負担が大きくなるのは間違いありません。あの盾も魔力を消費していますので」

「でもこの場を切り抜けるのに他に方法が!」

「お話中悪いが、ネム気づいてるか?」


 ユーシスは真剣な面持ちでネムに聞いた。


「ええ、包囲されてますね」

「でも後ろには……」


 私が後ろを振り返ると、そこには鷲の紋章が描かれた鎧を身に着けた兵士達の姿。隊列を組んだまま私達の方へと前進してくる。その顔を凛々しく、いかにもやる気に満ちた表情だった。

 隊列の後方には白馬に乗ったマキアスさんの姿もあった。


 私はマキアスさんに向けて大きく手を振った。

 それに答えるかのように手を振り返してくれるマキアスさん。

 やっぱりマキアスさんは悪い人じゃないよね。


「マキアスさん助けてください。矢が――」


 マキアスさんに駆け寄ろうとした時、焦っていたせいか脚がもつれて転んでしまった。


「姫様! ご無事ですか?」

「うん…………」


 そしてネムが私の肩に手を置いた瞬間、マキアスさんが驚きの言葉を兵達に告げたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る