第15話 久しぶりの団欒

 ユーシスは筒状の先に紐が付いている物を迷いなく点火する。そしてすぐにウルフがいるであろう茂みにその筒状の物を投げ込んだ。


 その瞬間、ユーシスは叫んだ。


「二人共伏せろ!!」


 ネムは急いで私に覆い被さった。

 辺りに眩い光が現れたと同時に大きな爆発音が森に響き渡った。

 強い突風と地響きが巻き起こる。

 

「いったいなんなのよ! この揺れ!」

「もういいぞ」


 私とネムはゆっくりと立ち上がった。

 さっきの突風で砂埃が飛んだのか、私の顔と服は砂だらけ。もう、こんなに汚れるなんて。

 

「ユーシスさっきのは?」

「ああこれな、俺の友人から貰ったんだよ。なんでも巨大な岩を破壊するための道具らしくてな。〈フラム〉って言うんだと」

「へぇ~、私も欲しいかも」

「ダメだ、これは俺のだ」

「むっ……ケチ」

「なっ!!」

「姫様、ウルフ達が撤退しているうちに」

「そうね、行きましょう」


 私達三人は周囲を警戒しながら、森の中を進んだ。


※※※※※※※※※※※※※※


 歩くこと数十分は経っただろうか。


 そろそろ峡谷が見えてもおかしくはないのだけど。と思った瞬間、前方には見上げるほど巨大な峡谷が姿を現した。

 岩壁から飛び出た岩がおぞましさを物語っているようだった。

 この峡谷を抜けた先にインギス村がある。


 そこでふと頭によぎったのは――もし峡谷を進んでいる途中何者かに襲撃される可能性だ。

 死者の森同様に。

 一本道のため逃げ道はなく、迎え撃つといった選択肢しかない。


 でも私の心はとうに決まっていた。


 あの小屋でネムと話したときに。


「二人共行くわよ」

「ええ、行きましょう」

「向かうとするか」


 私達三人は恐る恐る峡谷へと足を踏み入れた。


 見上げるたびに思ってしまう。

 あの岩壁から突出した岩が落ちてこないか心配だ。あんなの落ちてきたらひとたまりもない。


 そろそろ日も暮れてくる時間。

 身体に負荷をかけすぎたのか、足腰が思うように動かない、というより痛くて仕方がない。


「ネムそろそろ限界かも」

「でしたら、そろそろ日も暮れる時間です。今日はここで暖を取りましょう」

「ごめんね、ありがとう」

「構いませんよ、我とユーシスは姫様の従者ですから気を遣うことはありません」

「その通りだ。俺達に気ぃ遣うことなんてな」


 ユーシスは薪から紐を外し、落ち葉の上に置いた。幸いなことに峡谷の上には緑色の何かが見えることから、森と同様木々でもあるのだろう。

 その木から枯れ葉がヒラヒラと峡谷の底である今私達がいる場所へと落ちてきているのだ。


 薪だけ燃やそうと思ってもなかなか燃えないだろうし、こうやって落ち葉が辺りに落ちてくれているのは本当にありがたい。


 その落ち葉に向かってネムは指先から火の玉を放った。


 やっぱりネムは凄いわね。魔法が使えるなんて。

 私なんかこの歳になっても初級魔法すら使えないのに。だから王都の学園にも通えず、城で本を読むだけの生活を送っていた。

 いくら魔法の説明が書かれた魔導書を読んで、その説明通りに詠唱してもなんの反応もないのは、正直言って悔しい。だって魔法の才がこれっぽっちもないということになるから。


 そしてだんだんと日は沈み、夜が訪れる。

 この峡谷を抜けた先にあるのは明るい光か、それともさらなる闇か、なんてね! 

 まぁ、闇なんてもうこりごりだけど。

 でも適当に考えた割にはこの言葉結構かっこいいかも。


「姫様これを」


 ネムに差し出されたのは、白いカップに入った熱々のスープ。


 いつの間に焚き火で温めていたのよ。


「ありがとう、いただきます」

「ユーシスも食べますか? それとも今晩は断食に?」

「おい、ネムお前、俺に食わしたくないだけだろ。食わなかったらどうなると思う? 間違いなく俺死んじゃうよ!」

「一日ぐらいで人間は死にません」

「ふん、そうくるか。なら俺が弱っているということ則ちお前の大切な姫様を守れないということだ。どうだ参ったか!」

「姫様の心配は無用です。我がお守りいたしますので」


 静かな夜にこの盛り上がりようは、逆効果では……。


 私達の声に釣られてまたウルフが襲って来たりもするだろうし、王国からの追手に気づかれるかもしれない。

 みんな静かにしてよって言いたいけれど、こんな機会滅多にない。城にいる時もこんなワイワイした記憶もなく、話すとしても一日のスケジュールやちょっとした雑談程度。

 こんなに笑い合ったのは、いつぶりだろう。

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