第13話 王女としての決意
私は身体を起こし、静かに立ち上がった。
そのままゆっくりと小屋の出口を目指して歩いた。しかしネムは私の肩を強く掴んだ。
そして正面に立ったかと思えば、まさかの私に平手打ち。
「あなたは、あなたという人は！ どれだけ愚かなのですか！！ 確かに今のあなたはもう姫ではないのかもしれない。ですがやるべきことはあるはずです」
「けど、けどね私には……できない。ネムみたいに戦う力もない、ユーシスみたいに守る力もない！ 私にはもう何もないのよ！！」
ネムは私を強く抱き寄せる。
その行動が何を意味するのかは私にはわからない。でもネムはきっと……私に伝えたいことがあるのだろう。
「姫様、確かに我は戦う力を人並み以上には持っているつもりです。しかし姫様のような優しい心は持ち合わせていません」
「優しい心って言うけど、そんなものあったって……何の役にも立たないじゃない！」
「いいえ、常に人のことを考えて、行動する。それができる方は世の中そう多くはありません。先程だってそうです。姫様は『逃げて』と仰ってくださいました」
「それは……自分が役に立てないからそう言っただけで……」
「自らを犠牲にする、それは弱さではなく、強さです。弱い者は人を蹴落としてでも、自身だけ助かろうとするはずです。ですから姫様はどうか自分を過小評価するのだけはおやめください」
「ええ…………」
「これからの姫様の人生は大変なことばかりでしょう。ですが、我がおります。そしてユーシスもおります。その他にあなたを慕ってくれている方々がいらっしゃいます。そんな方々のためにも」
ここまでネムが私のことを考えてくれてるなんて……。
自分でもわかってる。今の私には何もない。
だったらせめて人のためになることをしよう。
私はこの瞬間、そう決意した。
「おーい！ ネム、姫の様子はどうだ？」
そう言いながら、小屋に入ってきたのはユーシスだった。
「ユーシスどこ行ってたの？」
「おお！ 元気になってる、のか？」
「うーん、どうかな。まだ身体の節々に痛みがあるし、力も入らないから微妙、なのかな？」
「なぜ疑問形？ まあいいや、当分この小屋でゆっくりとするつもりだから姫はじっとしてろよ」
「そうなの？ ここにどれくらい滞在を」
「まあ、食料の問題もあるが三日ぐらいか……ネムの意見は？」
「ええ、我はあまり長居はしないのが得策だと考えています」
「そっか、なら姫に決めてもらうか。ネムからある程度話は聞いたろ？ この森を抜け、そして峡谷を抜けた先にあるインギス村を目指すか、それとももう少しここに滞在して傷を癒やすか」
ネムは先に進むべきと言ってるし、ユーシスは滞在する気満々だったし。どっちにしろ追手が迫っている以上、長居してても仕方がない。
もしこの場所が発見されたとしたら、逃げ道はまず潰されるだろう。この小屋を包囲する形で。
しかしインギス村に向かうとなれば、運悪く追手と鉢合わせをする可能性もある。
でも本来の目的は目指すことなんどけど。
どうする？
私の身体は無理をしない程度ならなんとかなる、気がするし。
「長居をしたって意味ない。だったら私達が動かなきゃ」
「確かに、ですが姫様のお身体の方は？」
「無理をしなかったらなんとか」
「本当によろしいのですか？ 姫様」
「うん、向かいましょう。インギス村に！」
私達三人は小屋を離れインギス村を目指す準備に取り掛かった。
今まで着ていたボロボロな服は脱ぎ捨て、小屋のタンスに入っていた白い衣服を身に着けた。その上に冒険者が着るような青のマントを羽織る。
そのマントの内ポケットには古びた仮面が入っていた。その仮面についても今後使える機会があるかもしれないと思い、内ポケットに戻した。
これで完璧！ 誰も私を姫だったとは思わないはず。もう綺麗なドレスは着ないし、これから着る機会もないだろうから。
使えそうな物を持ち去るのは、あまりいいことではないけど拝借して、ありがたく使わせてもらおおう。水を汲むための給水袋に寝袋など。
野宿をするために必要な物を持ち運べる程度に。
「二人とも準備はできた？」
「ええ、我の方は。ですがユーシスの方は」
「ユーシスは外に？」
「ええ、それと姫様荷物を我に」
「大丈夫よ。私は自分で持てるし、これくらいはしないとね」
ネム、さっき少し笑ったような……。
口元に手を持っていってるし、それともただ単に疲れてあくびをしているだけ、なのかな。
私はネムの手を引き、小屋の外に出た。
するとそこには理解を苦しむ行動をしたユーシスの姿があったのだ。
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