第12話 目覚めて
何だろう? このふわふわした感じ。
それに温かい何かが私を包み込んでくれている。
『大丈夫よ、リーゼの側にはいつもわたくしがいるからね』
この声聞き覚えが……もしかしてお母様?
『どんな時も、どんなことがあってもリーゼを見守っているからね』
この言葉……まだ私が小さかった頃にお母様が言ってくれた言葉だ。
私はお母様が大好きだった。
暇あればすぐにお母様の執務室に行って一緒に遊んでもらって、あの時は楽しくて、ずっとこのままお母様と一緒にいられたらと思ってた。
でも……お母様は突然亡くなった。
その時の私は心にポッカリと穴が空いたような気がして悲しむことしかできなかった。
まだ小さかったから、お母様の身に何が起きたのかも理解できていなかった。あの時の私は単に寝ているだけだと思っていた。それに顔には白い布が被せてあってこの日以来、まともに顔すら見せてもらえなかった。
それに何日経っても、お母様は起きない。いつもなら私に笑いかけてくれるのにベッドに横になったままピクリとも動かないのだ。
だが数日悲しみ続けた私はようやく理解した。
お母様は天に召されたのだと。
「いやああああ!! お母様、お母様行かないでよ!!」
「姫様! どうされましたか!?」
「お母様……お母様が!!」
「大丈夫ですよ。側には不肖ながら我がおります。我はずっとあなたのお側に」
目を覚ますと私を優しく抱き寄せ、頭を撫でてくれるネムの姿。溢れる涙はネムの鎧を伝って床へと流れ落ちる。
怖い、寂しい、悲しい。
ネムに抱きしめてもらうと、そんな感情がすべて浄化されるように一瞬で心の内から消えていく。
でも眠る時は毎日のようにお母様の夢を見る。
もう大きくなったんだから、いい加減克服しないと天にいるお母様に叱られるよね。
私はボロボロの衣服の袖で涙を拭った。
「落ち着きましたか?」
「うん、ありがとう……それとネムもう放してくれても」
「でしたら姫様はもう少し横になってお休みください。今はまだ身体が衰弱している状態ですので」
ネムは私をゆっくりとワラの上に寝かした。
でもよくよく周りを見るとここは古臭い内装の小屋の中みたいだ。家具はいくつか置いてあるけど、すべて年期が入ってる感じだし、昔は誰かが住んでいた痕跡もある。
食器に衣類、ホコリを被った写真立て。
確かに森の中で生活していくのは大変だろうから、ここの元住人はどこか住みやすい場所にでも移住したのかもしれない。
私がそうやってキョロキョロしていると、
「目を瞑った状態でも構いませんので、今の状況を説明させていただきます」
そしてネムから伝えられた内容はこうだ。
私を地下牢から連れ出した後、無事、追手を振り切り、国を出ることができたみたい。
ユーシスは常に周囲を警戒し、ネムは私を背負って走ることに必死だったらしい。
国を出たとしても追手は次々と迫ってくる。
その度にネムは私をユーシスに預け、単体で相手をする状況がおよそ二日も続いたようだ。それはもう長い長い2日だったようで、埒が明かないと考えた二人は、王国より遥か東に位置する死者の森へと逃げ込んだ。
もちろんこの森に身を隠すのには、ちゃんとした理由があるみたいで、一つは森の中は木々が生い茂り、それによって太陽の光は遮断され静かで薄暗い環境下であったこと。その地形を上手く利用して、追手を巻いたという。
もう一つはこの森を抜けた先には峡谷が存在し、さらにその峡谷を抜けると王国とは無縁の数少ない村――インギス村と呼ばれる場所が存在している。
そこを目指すためといった理由もあるらしい。
当然、身分は隠スことにはなるけど、ネムが言うには村の人々は王族を大変嫌っているようなので、変装でもして出入りすれば問題ないとのこと。
バレた時には平和的な解決は望めないけど。
二人はここまで先のことを考えて……でも私は何も考えず、自分のことばっかりだった。
おまけにネムとユーシスの足を引っ張るだけのただのお飾り姫……いや今は平民に過ぎないわよね。
「姫様、悔しい気持ちはお察しします。ですが今は逃げることだけを考えなければなりません」
「ええ、でも……私はもうただ足を引っ張るだけの――」
「平民と仰りたいのですか?」
私は静かに頷いた。
だってそうでしょ。犯罪者として国から追われ、王位継承権も剥奪され、もう私が生きる資格もそして意味もすべて失ってしまった。
最初は王位継承権なんてどうでもいいと思ってた。だけど、私の考えはすべて甘かった。
王族である以上、周りに目を配り、もっと慎重に動かなければならなかったのだ。
これもそれも従者のせいなんかじゃない。
私の自業自得なのだ。
「ネムもういいよ……私なんか守らなくても。ネムとユーシスだけでも今すぐ逃げて。私は大人しく投降するから」
そう、これでいい。
身分も誇りもない私を彼女たちが、これ以上命を懸けてまで守る意味なんてないのだから。
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