第10話 計画実行
机の上に放置していた紅茶は冷たく渋みが増し、香りどころではなく苦味すら感じる。
システィアは自室でもゆったりと落ち着くことができなかったのだ。
「ふふっ、ユズハ今すぐこの紙を騎士団本部に。催しの準備や指示などが書かれています」
「………………」
ユズハにはきちんと指示を出した。
(今宵の催しに備え一休みでもしましょうか)
システィアは椅子に腰かけながら目を瞑った。
※※※※※※※※※※※
そして時間になり、システィアは催しが開かれる謁見の間へと足を運んだ。そんな彼女の後ろには騎士団長のマキアスが付いて歩いている。
誰かに監視を頼まれているのかもしれない。
会話も一切ない。常にシスティアのことを彼は見つめているだけなのだ。その時、会場へと入ってくるリーゼの姿が見えた。
すぐにリーゼのもとに駆けつけると、
「お姉さま、来てくださったのですね! それにとっても綺麗です。どうか楽しんでいってください」
「ありがとう、システィア」
「わたくしの娘に馴れ馴れしく話さないでいただけるかしら」
誰かと思えば、セレスが割入って来たのだ。
「いえ、別に馴れ馴れしくは……」
「言い訳など聞きたくもありません。リーゼあなたのような無能な人材が王位継承権を持っていることこそ不思議で仕方がないわ。それに比べて、わたくしの娘は名門貴族の方々まで喜んでくださる今宵の催しの主催者です。あなたに私の娘のような真似ができますか? いえ、できませんよね。所詮は偽りの姫なのですから」
本当にどうしようもない王妃だ。
手柄を自分のことのように。
「セレス様、偽りの姫とはいったい?」
「ああ、可哀想だこと。陛下にお聞きになっていないのね。そろそろ陛下のお言葉が――」
「皆様、よくお集まりくださった。今宵は娘であるシスティアが自ら指揮を執り、ここまで立派にしてくれた。感謝するぞ、システィアよ」
「いいえ、これも陛下のためと思えば」
国王はシスティアの指示通りの動きを見せていた。
出番はこれで終わった。後にやるべきこと、それは……。
「ねぇユズハ先に会場の外に出て、全身が黒鎧の彼女の動きでも封じといてくれるかしら」
「……………………」
システィアは人混みを避けながら、会場の外へと足を進めた。しかし空気を読めないのか、見知らぬ男は呼び止めたのだ。
「システィア姫殿下、どちらに?」
「わたしは少し所用がございますので、失礼いたします」
「で、ですが!」
見知らぬ男性を無視し、会場の外に出た。
そして辺りを見渡すと、扉のすぐ横にいたのは、
「ごきげんよう、ネム・エドワーズ」
そう言いシスティアは軽く頭を下げた。
「……システィア姫殿下。これはあなたの仕業でしょうか?」
「ええ、少し用がありまして動きを封じさせていただきました」
「それで用というのは? まさか姫様のことで?」
「お姉さまの侍女レティーには詳しく伝えてあります。ではお元気で」
システィアはネムに背中を向け指を鳴らした。
その瞬間、夜空には大きな花火が打ち上がる。
同時にシスティアは、
「ネム・エドワーズせいぜい耐え凌ぐことね。あなたにとってお姉さまは必要。その逆もまた然りですから」
そう告げシスティアは一切後ろを振り向くことなく、自室へと足を進めた。
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