第7話 劇場型反逆の幕開け
システィアにとって細かな計画など必要ない。
計画を企てたところで、相手の動き次第ですべての歯車が狂ってしまう可能性があるからだ。
少々心苦しいとは思いつつも、システィアはリーゼを利用しようと考えていた。
それにはまず準備が必要不可欠。
まずはに今回の件を国王――父親に報告する。
そして急ではあるが、夜に催しを開くことにしたのだ。
システィアは敢えて執務室には入らず、すぐさま国王がいる謁見の間へと足を運んだ。
その大きな扉の前には、三人の近衛兵の姿。
(彼らはわたしの計画に必要ありません。ですので舞台から降りていただきましょう)
システィアは右手を上げ言った。
「ユズハあの者達を片付けなさい」
「………………」
決して誰にも姿を見せず、会話もしない。
しかしシスティアは背後に誰がいるかとうに理解していた。すると、指示に従ったユズハは目の前にいた三人の近衛兵をあっという間に片付けた。
殺しはしない、単に気絶させただけの話。
「ご苦労さまでした! けど少しばかり余裕を見せ過ぎではないですか? 決して自分より弱者であっても気を抜かないことです。あの時気を抜いたからこそ、あなたはわたしに敗北したのですから。ふふふっ!」
「………………」
「沈黙するのはいかがと思いますが、まあいいでしょう。あなたに許されるのはわたしに従うことだけ。感情など不要。そのためにあなたを側に置いているのですから」
「………………」
「あなたのやるべきことは理解していますね。では行きなさい。ユズハ」
システィアの背後からユズハの気配は消えた。
そんな彼女の素性については、多くを語ることはない。まあ、ひとつだけ言えるとすれば、彼女は自分の技量も理解できずに、システィアのことを罵り、油断したことによって自らの敗北を招いた。
なので先程のように彼女に指示を出しているのも、システィアからすれば単なる余興に過ぎないのだ。当時服従するのなら、生かしてあげるといった条件も出した。その結果がこれだ。
だからこそ彼女は静かに指示に従っているのだ。
逆らった時には、首が飛ぶ、そう理解しているからこその行動なのだ。
「さて、入りましょうか」
謁見の間の大きな扉を開けると、奥に見えたのは玉座に腰掛ける国王の姿だった。辺りを見渡す限り、近衛兵の姿は見受けられない。
これは好都合。多少騒ぎになっても騎士団がこの場に駆けつけるまでの時間はおよそ5分は掛かる。
(もしも緊急事態が起きたらどうするのかしら?)
国王と何者かの小競り合いが起きたとしても、すぐに駆けつけることができない。ましてやその駆けつけている最中に国王である父親が命を落とす可能性だって考えられる。
(ここは一つの改善点として記憶しておきましょう。次期国王のためにも……)
しかしそんなことにも気づかない無能ばかりだとこの国も大変だ。無能が無能の面倒を見る、こんな負の連鎖が王国ではもう何十年も続いている。
それを断ち切ることも目的の一つなのだ。
「お父さまお話よろしいでしょうか?」
この場にシスティアが立っていること事態がそもそも本来ならあり得ない話なのだ。
「なぜ、そなたがここに?」
そう聞いてくるのは予想通り。
後はこの状況を利用し、国王を少しばかり煽るだけだ。
システィアはここで畳み掛けることにした。
「ふふっ! それはこちらの質問です。お父さまのような
「貴様この国の国王である余を
「この国が衰退した
「当然だ、人口の減少および隣国との小競り合いの損害で」
「それが……質問の答えと受け取っても?」
「うむ、相違ない」
「はぁ、だからこの国は……」
システィアは大きくため息を吐いた。
この国が衰退した理由、それを何一つ理解していなかったのだ。
(もしかしてお姉さまはそれが分かった上で、次期国王の座を辞退する移行を固めているということでしょうか?)
だが、システィアはそれを決して許さない。
リーゼには思い通り行動してもらわないと話にならないからだ。
「貴様! そのため息は何だ!?」
「いえいえ、本当に状況を理解されていないご様子なので。お父さまにはこのわたしが描く
「な、何を? 衛兵! 衛兵! おらぬのか!?」
「ああ~扉の前にいたあの方達でしたら、ゆっくりとお休みにならてれていますよ」
「余に何かあれば貴様もただでは……うっ!!」
国王の背後にはユズハの姿があった。
まさに月夜時に輝く白銀の髪、エルフと同様尖った耳を持つハーフエルフ。人間とエルフの間で生まれた希少種と言っても良いのかもしれない。
ユズハは国王の喉に鋭利な刃物を押し当てている。動けば即死、叫んでも即死。
さてこんな状況の中、どういった行動を取るのか。それが楽しみで仕方がないのだ。
しかし怯えて玉座にアレを漏らされても良いことはない。よってシスティアは指示を出した。
「ユズハ、その
その一声でユズハは国王を立たせ、背中を強く蹴り飛ばした。もちろん国王は怒りに満ちている。
だがシスティアには何一つ関係のないことだ。
「貴様誰に命じられた? まさかセレスか? あの女が王の座を狙って!」
「一つだけ良いことをお教えしましょう。わたしのお母さまのセレスはとある男性と不倫しております。これは紛れもない事実。この目でしっかりと確認いたしましたから」
「ま、まさかその男とは……マキアスではあるまいな?」
「……………………」
「それとも貴様の虚言か!? どうなのだ!?」
「……………………」
質問に答える必要はない。
今、この場を支配しているのはシスティア本人。だが当然、質問をさせたところでシスティアは相手の顔を知らないので、答えようもない。
よってこの状況を上手く利用すれば……面白いことになるのは確かなのだ。
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