第2話 義妹

 レティーの手には綺麗なシーツ。

 多分、ベッドメイキングでも……て、もうそんな時間なの。


「リーゼちゃん、ベッドのシーツ替えを……あらあらあら、お邪魔だったかしら」

「レティー!! いつも言ってるでしょ、ノックしてから入って来てって!!」

「もうリーゼちゃんったら、そんなに恥ずかしがって。はい、頭なでなで」

「ふふふん!」


 ああ、やっぱりレティーに頭を撫でられるのは心地良い。それに安心する。

 まるで幼い時、お母さんに撫でられたあの時のようで。


 しかしネムとユーシスの冷たい視線。

 どうも私のこんな姿を見て呆れている様子だ。


「姫様……」

「姫……」


 そんな二人の反応を見て私は我に返った。

 ついつい幼い頃からの癖がたまに出てしまう。


「二人共違うのよ。これは、そう全部レティーが悪いの。そ、そう私はレティーに洗脳を受けているに違いないわ!」


 私は思いつく限り言い訳をしていた。

 二人はそんな私を見て、笑いを堪えているようにも見える。


 ネムは甲冑越しからも「クスクス」と笑い声が漏れている。


 ユーシスはいつ吹き出してもおかしくないほどお腹を抱えて必死に笑いを堪えている様子だった。


「姫様、お気になさらず。我々は笑ったりなど……ぷっ!」


 ネムは絶対私をバカにしている。

 それにユーシスまで。


「あははははははっ!! 無理無理、ヤバっ! 腹が痛い!」


 二人の様子を見ているうちに、私の恥ずかしさは沸点へと達した。仮にも私はこの国の第一王女なのに、従者である二人が私をバカにして良いはずがない。

 笑ってる二人を止めようとしたその時、誰かが私の部屋の扉をドンドンッとノックしていた。


「どうぞ、入ってちょうだい」

「失礼します、お姉さま。今、お時間よろしいでしょうか?」


 この場には相応しくない、いやそれは言い過ぎね。

 彼女の名は第二王女であり私の義妹――システィア・ラルフハルトだ。私とは違った茶色い髪に、背は頭一つ分高い。

 父上と婚約を交わした第二夫人――セレスの娘であり、私にとっては義理の妹にあたる。


 セレスは私のお母さん――当時の女王の死後、王位は父上に譲り、大半の役割を引き継いだ女性だ。で、巷では男遊びの激しい女として有名だ。


 そんな噂が絶えない女性と何で父上は婚約をしてしまったの? 


 おまけに娘のシスティアは普段から何を考えているかまったく分からないし……正直言って恐い。

 それとまあ当然だけど、腹違いだから彼女とは仲が良い訳ではない。今までまともに会話すらしてこなかったのに、いったい何の用があってここに?

 

「大丈夫よ」


 そう告げた私は、ネムとユーシス、そしてレティーに部屋を出るよう手で合図を出した。

 私に一礼してユーシスとレティー部屋を出た。

 一方でネムは部屋から出ようとしない。


「ネム何をしているの?」


 私は小言でそう言った。


「……………………」


 私が聞いているにも関わらず、無言のまま何の言葉も返ってこない。だったら仕方ない、ネムは出て行く気がないみたいだから、話を進めよう。

 システィアが何の用で私の部屋に来たのかちゃんと確認しなければ。


「ご――」

「ここが……お姉さまのお部屋ですか?」


 システィアに「ごきげんよう」って言うはずだったのに、先に話し出すなんて。そもそも、挨拶なしで話し出すなんてこと王族では到底有りない行為なんだけど。 

 王族としてのマナーや所作を侍女がこの子に教えているはずだけど……これって、どういうこと?

 まあいいわ、なにか大事な用っぽいし、ここは大人しくして置くのが一番よ。

 

「ええ、そうよ。問題でも?」

「いいえ、思ったより綺麗にされているようで、わたくしは安心しているのです」

「あなたは何が言いたいの?」

「『あなた』……ですか。わたくしの名前は呼んでくださらないのですね。役にもたたない従者やあの侍女の名は呼んでおられるのに」

「で、あなたの要件はなに?」

「まぁいいでしょ。お姉さま今宵はちょっとした催しを用意しております。楽しんでいただければと」

「催し? あなたが?」


 なんか怪しい、何か企んでいる?

 出会ってこの方、こんな誘い一度もなかった。

 一応、義理の姉妹だからか? 

 それとも私を警戒している? とはいっても私はそんなたいした器じゃない。

 国王の座にも興味がないから、もし警戒しているのならするそもそもする必要がない。


 とは言っても、王家だと警戒することは当たり前。相手の話すことを一言一句漏らさず記憶し、次に相手がどのような発言をするかを予測する。

 そしてこちら側が有利な状況になるよう発言する。これが鉄則だ。


 簡単に言えば腹の探り合い。

 これが出来ないようなら王族としては無能、とみなされてしまう。


 だけど私は催しの件を今、あれやこれや考えている。でもシスティアは平然とした顔で淡々と説明している。まるで最初からこういう流れになるシナリオが仕組まれていたかのように。

 

「ええ、今までわたくしとお姉さまの関係はギスギスしていました。この際、本当の姉妹、義理ではありますが、催しを通してわたくしと仲良くしていただきたいと思いまして」

「そう、分かったわ。時間が合えば顔を出すことにしましょう」

「必ずですよ、お姉さま。来ていただかないと面白さが半減してしまいますので!」


 システィアの顔から笑みが溢れる。

 不気味だ、本当に不気味で仕方がない。

 この子がこんなにも笑った姿、一度も見たことがないのだ。


「ではお姉さま、わたくしはこの辺で。それと警戒する必要ありませんよ。わたくしは何があってもお姉さまの味方ですから」

「ありがとう、システィア」


 とは返したものの、余計に警戒するわ!

 そうだ、この際あの人に相談してみましょう。

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