箱入り王女が聖女と呼ばれる理由〜国から追われて専属従者と旅に出ました。すると各地で謎の聖女様扱い、いえ私は聖女ではなく王女です!!〜

冬ノゆきね

第1話 私は第一王女

「やっぱり世界って広いわね。いつか私も旅に出てみたいなぁ~」


 私、第一王女リーゼ・ラルフハルトは、自室の壁に飾られた世界地図を眺めていた。


 それにこの独り言だって私にとっては落ち着く行為の一つなのだ。侍女と話しても、みんな私に気を使うみたいで、話の途中で静まり返ることが度々起きる。だから私は独り言をよく呟いているのだ。

 誰かと話している、そんな気持ちにホッとするからだ。でも侍女がなぜ私に対して気を使うのか――それはさっきも言った通りこのラルフ王国の第一王女だからだ。


 その割にはみんなから「金色の髪が綺麗だね!」とよく言われるし、身長が低いのもあって「子供みたいで可愛らしい!」なんてこともよく言われる。


 そんな発言すべてが私に気を使ってるはずの、侍女が言っているのだ。

 最近本当に気を使ってるの? と疑問に思うこともしばしばです。


「姫様、地図をご覧になっていかがなされましたか?」

 

 そう私に聞いて来たのは、従者の一人であるネム・エドワーズ。普段から重そうな漆黒の鎧身に着け、甲冑を被り、姫である私ですら素顔を一度も見たことがない。だから男性か女性かなんてこと私にも分からないのだ。


 声を聞く感じ女性だとは思うけど……本当にどっちなのかしら?


「はぁ……いつからいたのよ、ネム」

「姫様、毎度忠告はしていますよ。独り言はほどほどにと」

「はいはい」


 私は普段からこんな感じだ。ネムの忠告を軽くあしらう日々。なぜなら私自身独り言は別に悪いことではない、と考えているからだ。

 独りで話してると、自然にコミュニケーション能力はもちろんのこと精神を安定させる効果もあるという。まあ、これはあくまで私の体験談だけど。


「姫、忠告はしっかりと聞くべきだと思うぞ」

「はいはい、分かったわよ」


 そうやってネムの言葉を後押ししているのは、黒髪に胸元には赤色のブローチ、ネムと同じく重そうな銀の鎧を身に着けた彼の名は――ユーシス・メルトリー。彼も私の従者の一人だ。


 この二人以外にも何人か従者はいるけど、彼らに関しては現ラルフ王国国王であり、私の父――ルーデル・ラルフハルト命を受け、他国へと赴いている最中なのだ。


 従者といってもみんな私の友人みたいなもんだ。でも一応城の中では、私の第一王女としての立場もある。そこで演技と言ったら父上が怒るかもしれないけど、従者らしく接してくれているわけだ。


 本来はこんな感じではなくてもっと砕けた感じなんだけど。それがまかり通るほど王族といった職甘くないのだ。


 おまけにさっきからそのユーシスがチラチラと私の方を見てくるけど、何か言いたげな表情だ。

 それくらい少し観察すれば一目瞭然。


「ユーシス、私に何か言いたいことでもあるの?」

「いや姫は本当に変わり者だなぁって」

「どうしてそう思うの」

「こんな恐ろしい奴を従者にするなんて、俺なら絶対お断りだけどな。なぁ? お前のことだぞネム」

「……………………」

 

 ネムはユーシスの発言に何の反応も示さない。

 でもさっきの発言『こんな恐ろしい奴を従者にするなんて』って言ってるけど、その言葉の意味が理解できなくもない。


 ネムは剣術の腕は確かなものらしく、王国に所属する騎士団員からは〈亡霊〉と呼ばれているらしい。素顔は見せず、鎧の中に人がいるのかすら分からないということで、こんなおかしな二つ名がついたようだ。

 食事を摂る姿、水分補給をする姿、誰もが目にしたことがない。それに人前で兜を外すことに抵抗でもあるのか? 

 それともどうしても外せない理由でもあるのか? 

 その真相は姫である私ですら知らされていないのだ。


 そんな〈亡霊〉なんていう二つ名だけど「全然剣の腕に関係ないじゃん」と指摘したくもなる。しかしそれを一度でも指摘してしまえば、私の大人しいお淑やかな姫としてのイメージが崩れてしまう、そんな気がする。

 だからあえて指摘しないようにしているのだ。


 それにこんな些細なことを指摘する姫ってなんかカッコ悪い気もしないでもない。

 

「姫様どうかされましたか?」

「別に……」

「ふむ、先程のユーシスの発言はお気になさらず。所詮、耐久力しか取り柄のない貧弱者が言うことですので、姫様は耳を貸す必要はありません。ただの戯言と受け取って貰えればよろしいかと」

「なっ! お、お前……俺のことひ、貧弱者、それに哀れだと言ったか!?」

「ええ、よく聞こえていましたね。哀れな貧弱者」

「フフフッ……だったら今日こそ言ってやる。お前だって常に顔を隠してる臆病者じゃないか!!」


 あ、また始まった。

 この二人はいつも喧嘩ばかりだ。場所を弁えず、父上が話していると言うのにろくに聞きもせず、口喧嘩が絶えない。

 そんな二人を見て父上は、仲介に入ったりもしていた。だけど途中で面倒だと感じてなのか、結局玉座に腰掛けとうとう見守るだけになってしまった。


 父上も父上で国王の命令でもなんでもいいから「静かにせよ」みたいな感じで一声言ってくれたら、二人も大人しくなると思うのだけど……そう、思ってるのは私だけなのかもしれない。


 二人共こう見えて仲が良いことは知ってるけど、そろそろ止めないと父上に「騒がしい!!」って怒鳴り込んで来られても困る。

 

「はいはい、二人共喧嘩はそこまで。見てるこっちが恥ずかしいわ」


 私の言葉を聞いた二人は急に沈黙になった。

 それは嵐の前の静けさと言っても良いのかもしれない。

 そう、二人の標的は姫である私に向けられたのだ。


「確かに姫様の仰る通りです。しかし姫様も我々の陰口を侍女達に散々言っておられるとの噂を耳にしましたが、それは事実でしょうか?」


 あ、な、なぜバレてるの?

 いやいやいや、おかしいでしょ。

 まさか……レティーがバラしたのね!! 

 レティー許すまじ!!


 レティーとは私専属の侍女だ。

 燃えるような赤い髪が特徴のお姉さん的な存在。私が幼い頃から面倒を見てくれて、仕事で忙しいお母さんの代わりにいつもご飯を食べさせてくれたり、遊んでくれたりと面倒見が良く、包容力もあってまさに私にとっては完璧な侍女なのだ。


 歳はいくつだったけ? 


 私の幼少期の頃からだから、かれこれ十数年一緒に居ることになる。その割には、見た目が全然変わらない。若いまま、だけに私の第二のお母さんって感じだ。


 実の母――ユリア・ラルフハルトは私がまだ幼かった頃に病によって倒れ亡くなった。

 綺麗な人だったというのは覚えている。

 私と同じ髪の色、青い瞳、そして耳が少し尖っていたことも。今だからこそわかるけど、お母さんはおそらくエルフだったのだ。


 そんなお母様さんとレティーを普段から重ねてしまうのはなぜだろう?


 その時だった。

 突然私の部屋の扉が開いたかと思えば、レティーが許可なしに平然と部屋に入って来たのだ。


―――――――

女性主人公、初めての長編小説になります!

同時進行で投稿している作品【無能貴族】とはまた違ったストーリーとなっています

最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

因みに毎日、夜8時14分頃更新予定です


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