第5話 犯人捕獲大作戦
犯人が土地勘のある人物だとしても、それでだけじゃどこの誰かなんて分からないよ。
ああ、もう。
これが推理小説ならどこかに事件を解くヒントがあるのが定番だけど、現実だと全然上手くいかないや。
だけど頭をひねっていると、雪丸さんが優しい声をかけてきてくれた。
「そんなに悩まなくてもいいよ。大丈夫、犯人だってそのうち飽きるだろうから。気持ちだけで十分だよ」
「でも……」
ボクは全然、十分だなんて思っていない。
だって今日初めて来たばかりだけど、この店や雪丸さんの事が、好きになったんだもの。
放ってはおけないよ。
そしてそれは、佐久間も同じ気持ちだったみたい。
「いい訳ないだろ。ああ、でもどうすっかなあ。絶対に小林が事件を解決するって、兄ちゃん達とも約束しちまったし」
カウンターにうつ伏せながら、頭を抱える佐久間。
約束したって、ボクの知らないところで、そんな安請け合いしないでくれないかなあ。
それに、兄ちゃんって誰?
佐久間は一人っ子のはずだけどなあ。
「佐久間、兄ちゃんっていうのは?」
「ああ、オレの兄ちゃんじゃなくて、ここによくラーメンを食べにくる、高校生の兄ちゃん達だよ。今日は定休日だからオレ達しかいないけど、いつもこの時間には、高校生がたくさん来てるんだ」
「恭介君はあの子達からも可愛がられているからね。よく一緒に話をしているんだ」
へえー、佐久間って高校生に交じって話をしているのか。
前々からコミュ力のある奴だとは思っていたけれど、きっと雪丸さんやその高校生達と話してる中で、つちかわれたのだろう。
人見知りで、話すのが苦手なボクとは大違いだ。
「で、その兄ちゃん達に、事件を解決するって言っちゃったんだね」
「まあな。兄ちゃん達が、自分達で犯人を捕まえてやるよって話してるのを聞いて、つい乗っかっちゃったんだよ。うちには朝霧小学校の小林少年って言われてるスゲー名探偵がいるから、任せておけって」
「誰が小林少年さ……って、ちょっと待って」
今の話を聞いてて、ふと思った。さっき佐久間が言ったのを聞く限りでは……。
「高校生達も、事件のことを知っていたんだよね。雪丸さん、もしかして今ボク達にしているみたいに、お客さんにも事件について話しました?」
「ああ、度々被害にあってるから、気づく人も出てきてね。色々聞かれたよ。みんな心配してくれているから早く解決して、安心させてあげたいんだけどね」
いや、一番安心させたいのは雪丸さんだから。
しかしこの様子だともしかしたら、かなり深い所まで話していたのかもしれない。
雪丸さんは話好きみたいだし、普段からお客さんとは、よく喋っているのかも。
だとしたら……。
「雪丸さん、もしかしてゴミがばらまかれるのはゴミの日だってこと、店に来たお客さんにも話していませんでしたか?」
「う~ん、したような気もするなあ。みんな心配して、事件の事を聞いてきてくれたからね」
「警察に相談したことや、パトロールを強化してもらったという話は?」
「それはしてると思う。最近店では、口を開けばその話ばかりだからねえ。もっと明るい話題があれば良いんだけどね」
雪丸さんは苦笑しているけど、これは笑い事じゃないかもしれない。
もしもボクの想像通りだったとしたら……。
「どうした小林。何か分かったのか?」
「うん、ちょっとね。どうして犯人が捕まらないのか、分かったかもしれない」
「えっ、本当かい?」
雪丸さんは驚いたようにボクを見るけど、ちょっと言いにくい事なんだよね。
もしも的外れなら、そっちの方がいいかも。
だけど一度浮かんでしまった考えは、消すことができなかった。
「気を悪くしないで聞いてください。もしかしたら犯人は、身近にいるのかもしれません」
「どうしてそう思うんだい?」
「さっき雪丸さんの話を聞いてて思ったんです。最初はゴミを散らかしていた犯人が、どうして急に落書きに切り替えたのかって。単にイタズラがエスカレートしただけとも考えられますけど、犯行がゴミの日に行われるって気づいた直後に手口が変わったことが、引っ掛かったんです。まるでこっちの動きを、犯人に読まれたよう気がして」
「たしかに、タイミングが良いかも。ゴミの日のパトロールを強化した途端にだからねえ。もしそのままゴミを散らかそうとしていたら、とっくに警察が捕まえていたかもしれないなあ」
その通り。だけど実際は、そうはならなかった。
そしてそれは、パトロールを強化が強化されたと知った犯人が手口を変えたと考えれば説明はつく。
それじゃあ犯人は、いったいどうしてそれを知ったのか。
「雪丸さんって、お客さんとよく喋るんですよね。だったら犯人が心配するふりをして、事件の事を聞いたとしたら。どんな状況で捜査が進んでいるか、いつくらいに警察が見回りをするか、雪丸さんから聞き出せるんじゃないでしょうか」
「ちょっ、ちょっと待てよ!」
佐久間が慌てたように、ボクの説明をさえぎってくる。
そして怒ったような顔でにらんできた。
「それじゃあお前は、お客さんの中に犯人がいるって言いたいのか? 言っとくけど、ここに来るのは、みんな普通の人。会社帰りのおじさんや、部活帰りの兄ちゃん達ばかりだ。その中に心配しているふりをしておじさんを騙してる奴がいるってことかよ!」
「それは……」
激しい剣幕に、思わず圧倒される。
言いにくかった理由が、まさにそれ。信頼しているお客さんの中に嫌がらせをしている犯人がいるだなんて、考えたくはないものね。
佐久間でもこんなに怒っているのだから、雪丸さんはもっと気を悪くしているかも。
だけど視線を移したてみると、雪丸さんは静かにじっとボク等を見ていた。
「止めなさい恭介君。もしかしたら、小林君の言う通りかもしれない」
「おじさん、でも……」
「そりゃあね。おじさんだって驚いているよ。けど、筋は通っているんだ。聞かれたら、つい喋ってしまうからね。けどいくら心配してくれるお客さんだからって、不用心にベラベラ話したのは間違いだったかも」
優しい声で、佐久間を制止してくれた雪丸さん。
けど一見おだやかに見えるその表情の裏は、ボクたち以上に傷ついているんじゃないかなあ。
信じていた人に、裏切られたのかもしれないのだから。
「ははは、おしゃべりがすぎたのかもしれないね。口は災いの元って言うのにね。これからは、あまり話さないようにしておくよ」
笑ってはいるけど、やっぱりさっきよりも元気が無いように見える。
だけどボクはもう一つ、あることを考えていた。
もしかしたらこれは、チャンスなのかもしれない。
「あの、もしかしたらですけど……犯人を捕まえる方法があるかもしれません」
「えっ、いったいどうやって?」
カウンターの奥から身を乗り出してくる雪丸さん。
最初は軽い気持ちでボクの話を聞いていたみたいだったけど、どうやらすっかりのめり込んでいるみたい。
佐久間も目をかがやかせながら、話に耳を傾けてくる。
「お前、犯人を捕まえられるのかよ? どんな方法か、早く教えろよ」
「上手くいくとは限らないけどね。実は……」
ボクはゆっくりと、二人に作戦を説明した……。
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