Epilogue:ポストマン

 シティの賑わいが遠く聞こえる郊外。

 喧噪と入れ替わりに学者の耳に入ってきたのは、ベルの音色だった。

 見事な穂を奏でたベルリカの畑に、ブラザーベルの家は包まれていた。

 そよ風に撫でられ、心地よい音色がなる中、学者は兄を呼んだ。



-兄さん。

-お前…。

-…久しぶり。退院してたんだね。

-…少し落ち着いてな。

-…そこ、座っていい?

-ああ、遠慮するな。どうやってここまで?

-あの子たちのおかげさ。

-あれは。まさか…。

-ううん。違うよ。新しく出会った子なんだ。

-…そうか。



-懐かしい味だな。この控えめな甘さも相変わらずか。

-お茶もあったんだけど、そっちは飲んじゃってさ。

-そこまで贅沢は言わんよ。

-…聞きたいんだけどさ。

-何だ?

-どうしてポストマンになったの?

-いつか、お前宛ての手紙を届けたくてな。

-そうなんだ。でも、兄さんからの手紙が先に来ちゃったね。

-そうだな。情けないことだ。

-…

-…なぁ。

-ごめんね。兄さん。

-え?

-兄さんから借りたものを返そうと思ったんだけど、ここに来る途中で落としちゃったみたいでさ。これだけ袋の中に残ってた。

-…こんなところが外れたりしたのか?

-そうみたいだね。だから、ごめん。

-いいさ。その代わりといってはなんだが…。

-何だい?

-料理の味見をしてくれないか?今回のは今までで一番いい音色に実ったんだ。

-いいよ。本当にいい音だね。

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DrEam of RhincoDonella Aruji-no @Aruji-no

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