Ride1 栃木県栃木市ー4

 洋館ゲストハウスを後にして、最初に来た道を戻って受付のある土間まで移動。

 麻蔵と逆の方向に進み、『栃木共立銀行』跡と、その奥の文庫蔵を見学させてもらう。


 栃木共立銀行は明治四十一年、横山家によって設立された銀行で、当時は地域の金融を担っていたらしい。

 しかし昭和十二年七月に勃発した日中戦争が長期化の様相を見せると、同年九月に“臨時資金調整法”が発布。政府による金融統制が敷かれ、これにより設備資金の貸し付けと、有価証券の引き受け・募集などが許可制となってしまう。

 さらに昭和十三年、“国家総動員法”が発令される。経済や国民生活などが政府が統制下におかれるなか、栃木共立銀行は廃業したのだった。


 廃業に至るまでの経緯は、国家総動員法がらみだけではないと予想する。麻関連の事業は大正十一年から衰退していたようだし、世界恐慌、そして昭和恐慌の影響も大きかっただろう。

 けれど、さっきまで横山家の栄光を沢山目にした身としては、豪華な所蔵品や立派な家屋、洋館などを所有する豪商も、時代の波には抗えなかったのか……と少し切ない気持ちになる。

 不景気、恐ろしい子……。


 おっと、話がまた飛んでしまった。

 これが私の悪い癖である。


 とにもかくにも、今は銀行跡に集中しよう。

 当時の面影を残す銀行跡は、通路に面してカウンターが設置されていた。大勢の人がこのカウンターまで足を運んでいたのだろう。

 立ち入りOKの小あがりを上がると、そこは板張りの床の上になっていた。

 受付横にあった麻問屋跡は江戸っぽい雰囲気だったのに対し、こちらは大正とか昭和といったイメージ。同じ建物内だというのに、畳と板の違いだけでこうも雰囲気変わるのか。

 カウンター側に置かれた、やたら頑丈そうで古めかしい机の上には、当時使われていた帳簿や判子などが残されていて、今すぐ銀行業務ができそうな雰囲気を醸し出している。

 その周囲には机同様に年季の入った棚や、昔の貨幣を展示している台、そして奥にひときわ大きな金庫が置かれていた。


 この金庫、数年前に某TV番組の“開かずの金庫を開けちゃうゾ☆”的な企画コーナーに登場したことがあるのだとか。

 金庫脇に展示された昔の貨幣は、その番組収録の際、金庫から出てきたものらしい。

 あの番組、ごく稀ーにタイミングが合えば観ることもあるんだけど、そういえば昔そんな内容を観たような覚えが……もはやだいぶうろ覚え。もっとしっかり観ておけばよかった(ミーハーでサーセン ※二回目)。


 銀行跡を見終えた後は再度靴を履いて、奥にある文庫蔵に向かう。

 ここは銀行業を営んでいたとき、帳簿などを保管していたらしいのだが、現在は横山家で昔使用されていた道具類が展示されている。

 麻蔵同様、二階へ続く階段もあるのだけれど、残念ながらこちらは立ち入り禁止。段上に沢山の下駄が置かれ、人の侵入を阻んでいる。これはこれでかわいい。

 展示品の道具類は、全て生活雑貨。鏡台や枕、家庭用アイスクリーム製造機なんてものまである。

 ちなみに枕の中に陶器製の物もあって、思わず二度見した。

 え、陶器? めっちゃ硬いよね? 朝起きたら、首が痛くなりそうじゃね?

 この枕を使ってた人、ちゃんと安眠できたのかな……。



 見学を終え、受付の方にお礼を言って横山郷土館を出る。

 時計を見ると、大体一時間ほど滞在していたらしい。めちゃくちゃじっくり見まくってたからなー。

 次の目的地は、日光例幣使街道。

 だけどそろそろお昼が近いし、まずは腹ごしらえにしようかな。どこに行こう。そこまで空腹というわけではないから、あまりガッツリ系じゃないものがいいかな。

 あとアイス食べたい、アイス。さっき見た家庭用アイスクリーム製造機のせいで、頭の中がすっかりアイスでいっぱいになってしまったじゃないか。

 なんてことを考えながら、M6Rちゃんに取りつけたチェーンロックを解錠し、畳んであった後輪を起こしたとき。


「あらー!」


 背後から上がった声に少し驚いて振り返ると、見知らぬマダムたちがこちらを見ていた。


「これ、自転車だったのね!」


「なんか形が似てるけど、それにしては後輪の形が違うし、なんだろうねって話してたのよー」


「これ、なんていう自転車なの?」


 そんなことを言いながら、近づいてきた。

 これなぁに? 系の質問は、初めてじゃない。街中でM6Rちゃんを展開させたり折りたたんだりしている最中、たまに声をかけられることがあるのだ。

 だからいつものように「折りたたみ自転車なんですよ」と答えるとマダムたちは「折りたためる自転車があるの!」と再び驚いていた。

 マダムたちとひととおり折りたたみ自転車の話をして、ついでに


「この辺で、ランチが食べられるオススメの店、ご存じですか?」


 と聞いてみる。

 ガイドブックやネットの情報もいいけれど、地元のことはやはり地元の人に聞くのが一番!

 と思ったのだけれど。


「ごめんなさいね、私たちもこの辺のことはよく知らないのよ」


 マダムたちも観光に来た方だったらしい。残念。


「でも駅前はお店が沢山あったから、美味しい所が見つかるんじゃないかしら」


 やはり駅前か。

 巴波川まで行く途中、いろんなお店があるのは目にしている。


「わかりました、ありがとうございます!」


 マダムたちに礼を告げ、駅前を目指してM6Rちゃんを走らせたのだった。



<参考サイト>

日本銀行百年史 https://www.boj.or.jp/about/outline/history/hyakunen/data/hyaku4_2_3_1.pdf

国立公文書館デジタルアーカイブ 臨時資金調整法・御署名原本・昭和十二年・法律第八六号 https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/Detail_F0000000000000034788

豪商の物語り「栃木の商業と金融」 https://www.tochigi-cci.or.jp/GENERAL/sonota/gousyounomonogataribooklet.pdf

……and more



Next→栃木駅付近、日光例幣使街道

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