Memory in Vain

サカイオサム

第1話

今まで誰にも話してこなかったことだ。

本当は誰にも話したくなかったんだが、今となっては誰かに言っておきたかった。

一人で秘密に耐えるにはあまりに苦痛だったから。


僕には好きな人がいた。

その人は断じてかわいい女の子じゃない。

僕が好きだったのは、僕のクラスのある男子だった。

僕は彼への思いを募らせていった。

告白なんて、できなかった。

告白なんかしたら、僕の居場所はクラスからなくなってしまう。

告白したがゆえに、自殺にまで追い込まれてしまった学生がいたという。

僕はそれが怖くて誰にも言えなかった。


でも僕の気持ちに気づいたやつがいた。

クラスでトップの、いや、学校で一番頭のいいマリという女子だった。

そしてマリも彼に思いを寄せていたのだ。

マリは頭もいいし男子からもモテる。

いわば学園の女王だった。

どうやら僕は、彼女の怒りを買ったらしい。

彼女は僕の書いている日記に目をつけて、体育の授業で校庭にいる隙に日記をかすめ取ったのだ。

でも僕には自信があった。

そういう事もあろうかと暗号で日記をつけていたのだ。

僕には暗号が解けないという絶対の自信があった。

だからもし解かれたら、そんなことは考えもしなかった。

でも彼女は簡単にそれを解読してしまったのだ。

僕の使っていたのはメアリの暗号と同じだったのだ。

マリは僕の暗号日記から使われている記号の数が50個ある事を特定し、日本語のひらがなで書かれていると判断した。

そしてそれぞれの文字の出現頻度を統計の知識で割り出して、暗号を解読したのだ。

僕は死ぬほど恥ずかしかっただけでなく、どうしようもない絶望に襲われた。

これでもう僕の人生はおしまいだと。

これだけは知られたくなかったのに!


僕は家にこもりがちになり、ネットで暗号の知識を集めまくった。

そう、僕は死ぬ代わりに残酷な社会と縁を切った。

孤独が最高に安全な僕の居場所だ。

僕は絶対解かれない本物の暗号が欲しかった。

そしてそれは彼女へのリベンジが目的だった。

そうしなければ、僕は永遠に誰かと関わることに恐れを抱かねばならなかっただろう。

そして僕が次に見つけたのは多表式暗号だった。

コンピュータで暗号を使い始めたのはつい最近だ。

そのあと同級の彼には嫌われてしまったのだが、今となってはどうでもいいことだ。

兎に角それが僕の暗号を勉強しようとした最初のきっかけだった。


学校で居場所をなくした僕は、引きこもり支援団体の作業所で同じ性的指向を持った男子と出会った。

彼と僕は恋愛関係になったが、ともに両親や作業所のメンバーには秘密にしていた。

ある日その恋人が自殺した。

そして色々調べた挙句、マリがパソコンをハッキングして、暗号メールを解読して彼の両親に証拠を送ったことが原因だと分かる。

マリはサイコパスであり、他人の幸福が許せない。

そして僕の家の前で待ち伏せして、僕にこう言った。

「彼氏が死んだってどんな気分?どのくらい悲しかった?」

僕はマリへの復讐を誓った。

彼を殺したのはこいつだ!

その時僕は多表式暗号を使って彼とメールをしていた。

デートの約束とかだ。

然しその暗号も既知平文攻撃で破られてしまった。

僕に残されている道はただ一つ、破れない究極の暗号を作る事だった。


僕はなぜ暗号が解読されたのか調べてみた。

その結果次のようなことが分かったのだ。


暗号の解読法には大きく分けて4つある。

最も困難なのは選択暗号文攻撃である。

以下、難易度が高い順に書いていくと、


1.選択暗号文攻撃

2.選択平文攻撃

3.既知平文攻撃

4.暗号文単独攻撃


である。

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