おまけの小話

 うぉぉぉーー!! 新たな生活のスタートじゃあぁぁぁーー!!


「さっくん、お隣さんに挨拶に行かないと!」


 あれからしばらく経ち、俺達はあの地域に住むのが嫌になって引っ越しをすることにした。


 何故かというと、俺達の中ではもう解決した話だったのだが、近所に住む人達があの件についてまだ色々噂をしていて、俺達を見てひそひそ話をされるのが面倒になってきたからだ。


 加藤さんの元汚臭もとおくさん…… じゃなくて、元奥さんがやらかしたことがしばらく経ってからも近所の奥様方の話のネタとして大盛り上がり、そしてその不倫目的のお茶会に詩織が参加していたのもバレて……


 そして俺の予想通り、詩織が間男とファミレスで待ち合わせをしていた姿や並んでホテルに入る姿を誰かに見られていたらしく、次々と詩織に対しての悪い、それも誇張された噂が広まることになってしまった。


『あそこの奥さん、昼間っから旦那以外の男をとっかえひっかえ遊んでる』


『定期的にパパ活もしている』


『あんなフリフリの格好して…… 宇宙人と契約して魔法少女にでもなったのかしら? 歳を考えてないわね!』


 などと、最後の噂は良く分からないが、詩織が居たたまれなくなるくらい近所で笑い者にされていたから、思いきって離れた場所にマンションを購入することにしたんだ。


 そして昨日! ようやく引っ越しが完了して、俺達の新居での生活が始まったんだ!!


 3LDKの中古のマンションで二人なら広すぎるが、いずれ子供がデキた時のために広めのマンションを選んだ。


 ただ、それにしては安かったんだよな…… もしかして事故物件? 夜な夜な悪霊の呻き声とか聞こえたら…… ひぃぃー!!


「ど、どうしたの、さっくん!?」


「よ、妖気を感じたような……」


「ほ、本当だ! 髪の毛がぴょこんってなってるよ!?」


 ……あ、いや、それは寝グセだわ。


「ちゃ、ちゃんちゃんこと下駄を持ってこないと!」


 おい、詩織ぃ!(裏声) 俺に悪霊と戦えというのか!?


「大丈夫! 私も一緒に戦う…… 右手の封印を解くから!」


 いつの間に片手に手袋をはめて…… どっちかというと詩織の方が強そう。


 ……なんてアホな茶番をしながら、これから始まる新生活に二人でウキウキしていた。



「ふぅ…… 詩織、押すぞ? 絶対押すからな? 絶対だぞ!?」


「う、うん!」


「…………」


 ピンポーン……


「キャー! さすがさっくん! シビれる、尊敬するぅー!!」


「へへっ、褒めたって何も出ないぜお嬢ちゃん」


『はーい』


 で、出たぁ! バ○ルドームじゃなくて、お隣さんが、出たぁ!


「あ、あの…… 隣に引っ越してきた者ですが……」


『はーい、今行きまぁす…… そーくぅん! 引っ越してきたお隣さんだってぇー!!』


「ドキドキするね! 良い人だといいなぁ……」


 管理会社の人の話だと、若い夫婦とその子供達が住んでいるとか言ってたよな…… 


 そしてお隣さんの家の扉が開いて……


 出てきたのは俺達より歳上そうな、それでいて可愛らしい美人さんだった。


「あらあら、こんにちわぁ」


「昨日隣に引っ越して来ました若瀬わかせです、よろしくお願いします! あの、これつまらないものですが……」


 粗品として渡したのはうどん。

 本当は洗剤とかにしようと思ったのだが……




『さっくん! 洗剤じゃつまらないよ! 餅の方がいいんじゃない?』


『餅だと喉に詰まったらどうするんだ?』


『だからつまらないものより詰まる物の方がいいでしょ? えへへっ』


 詩織ちゃん…… そういうことじゃないんだよ。


 そして、あーだこーだ言い合った結果、引っ越しの挨拶に渡す粗品はうどんに決まった。


『餅…… 力うどん…… 今日の晩ご飯は力うどんにしよー?』


 詩織ちゃんはどうしても餅が食べたかったんだな…… まあ、力を付けて昨日は新居で盛り上がったけどな!


 そんな事は今はどうでも良くて! とにかく挨拶に集中!




「鬼島ですぅ、わざわざありがとうございます、こちらこそよろし……」


「ママぁー!!」


「あらあら、大海たいが、うふふっ、お隣に引っ越してきたお兄さんとお姉さんよ? ちゃんと挨拶できるかなー?」


「こんにちわ!」


 おお、可愛い男の子だ、ちゃんと挨拶出来て偉いな!


「はるママぁー!」


凪海なみも来たの?」


「ママ、お客さん?」


「美海、お隣さんが引っ越しの挨拶に来てくれたのよ」


「晴海さん、呼びました?」


「そーくん! お隣さんが……」


 ……おお、小さい子もいて賑やかな家族だな! 


「それじゃあ今後ともよろしくお願いします!」


 そして挨拶を終えた俺達は自宅へと戻り……


「ねぇ、さっくん…… お隣の家、なんか変よね?」


「気付いたか?」


「うん……」


 最初出てきた美人さん、その子供らしき二人、そして美人さんそっくりの妹さん? だが最初に出てきた美人さんを『ママ』と呼んでいた。

 そして帰り際、若い旦那さんと美人さん姉妹? がベッタリイチャイチャとしていた。


「変な家族……」





 そしてその日の夜……


「し、詩織!」


「さっくん……」


 俺達はお互いに怯えながら身体を寄せ合っていた。


 隣から聞こえる激しくぶつかり合うような戦闘音……


 悲鳴にも似た男性の呻き声……


 警報のような女性二人の声……


 ポルターガイストでも起こっているのかギシギシという音も聞こえて……


 何となく安い理由が分かった。


 そして俺達は引っ越し早々、部屋の防音工事を依頼した。




 ……もしかしてこっちも丸聞こえだった?

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妻が不倫相手とホテルから出てきたのだが… ぱぴっぷ @papipupepyou

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