第5話 チートトラッパー。
たいまつだけが明かりとなる暗い簡易拠点の中、ひっそりと思考を巡らせる。
正直情報が足りなすぎる。基本的に博打にしかならないのが異世界生活の辛いところだ。
★象徴 [未設定]
俺の領域の象徴。何を象徴にすべきだろう。[浄樹]の領域のシンボルに最も適した象徴と考えると、やっぱ自然とか、豊穣とか?
この世界ではほとんど、というか完全にまともに食べられる植物なんて存在しない。ほぼ全て瘴気に汚染されてるからな。
そう考えるとやはり植物を育てる方面が良いか? いやいや落ち着け俺よ。そもそもここは禁獣に襲われたら即終了のオワタ式の荒野なんだ。悠長に植物の成長なんて待ってたら俺が死ぬ。
戦う方面で、なおかつ領域にバフが掛かりそうな都合のいいシンボルはないものか。才能、とか希望とか……希望! 良い感じがする。
考え込んでもわからんことは考えても仕方がない!
★象徴 [希望]
『象徴ボーナス! [希望]ボーナス! あなたの領域内ではあらゆる生き物の才能が開花しやすくなります! [才能開花+1]が追加されました! また、幸福度が上昇します!』
『領域メニューを開きます』
★名称 [浄樹]の領域
★種別 [浄域]
★象徴 [希望]
★規模 1/10
★領域ボーナス [豊穣の大地+3][清浄の波動+2][才能開花+1][浄樹の加護--]
初期設定だけでかなり体力を使ったような気がする。ま、とりあえず領域とやらの設定はこれでいいだろう。続きは貴様じゃ! 耕作ファームランド!
システム通知を遡ると、チュートリアルの嵐。
『耕作メニューを開きます』
★名称 [未設定]の畑
★守護 [未設定]
★傾向 [未設定]
★規模 1/10
★耕作ボーナス [豊穣の大地+1][未確定]
『チュートリアル! あなたの畑に名前を付けましょう!』
でもぶっちゃけ領域と違ってコンセプトがはっきりしてる分やりやすい。俺が畑に求めるのは良質な野菜と簡単に生育できるかどうか。
★名称 [豊穣]の畑
『名前ボーナス! [豊穣]の畑ボーナス [豊穣の大地+1]が[豊穣の大地+3]に進化しました!』
しめしめ。
『チュートリアル! あなたの畑の守護を決めましょう!』
★守護 [浄樹の人霊]
『守護ボーナス! [浄樹の人霊]の畑ボーナス [清浄の波動+1]が追加されました!』
勝手に決められるんだこれ。システム側で決めるんなら別にチュートリアルにしなくていいだろ。
『チュートリアル! あなたの畑の傾向を決めましょう!』
★傾向 [促成]
『傾向ボーナス! [促成]の畑ボーナス [成長速度上昇+1]が追加されました!』
★名称 [豊穣]の畑
★守護 [浄樹の人霊]
★傾向 [促成]
★規模 1/10
★耕作ボーナス [豊穣の大地+1][成長速度上昇+1]
『チュートリアル! 畑に種を植えましょう!』
『インベントリにトマトの種×5が追加されました!』
さーて、大体終わったが……インベントリを開き、トマトの種の表記を見つめる。
これ植えてちゃんと育つんかな……? 水がないんだが。汚染された水すらないからな。今の時期は雨も降りにくいし、降ったとしても汚染されてるからなー。
ま、考えても仕方がない。とりあえず植えてみるしかないな。
俺は石のクワをインベントリから取り出し、せっせと簡易拠点の中を耕していく。
『開拓の才、浄化の才、労働のコツ+2、自然感応+2、開墾+2が発動します!』
おほー、耕せる耕せる。俺はそのままサクサクと簡易拠点内を耕しまくった。お陰で残った足場は設置した木の床くらいしかない。
インベントリからトマトの種と、浄樹の実とやらを取り出す。
植えてしまっていいのか? これ。もう少し慎重に決めるべきだろうか。
……ま、今更か。なるようになるしか、ねぇ!
大人しくトマトの種×5と浄樹の実を植える。水もないし肥料もないし、およそ最悪と言っていい土壌だが、なんとかなってくれぇぇ……!
最後の浄樹の実を植えたところから、じんわりと暖かい熱のようなものが伝わってくる。空間を越えて、俺に何かが注ぎ込まれている。
あったけぇ……!
★名前 [イツキ]
★種族 [浄樹の人霊]
★職業 [開拓者]
★レベル 0
★才能 [開拓の才][浄化の才][逃走の才]
★PERK
『コツ系』
[採取のコツ+2][労働のコツ+2][工作のコツ+1]
『行動系』
[開墾+2][浄域支配+1][領域指定+1]
『体質系』
[腹持ち向上+1][秘められた才能+2][自然感応+2][大地の恵み+3][殺害適正+1][鉄の胃袋+2][苦痛耐性+3][貧者の瞳+2][浄樹の化身+1]
★BAD PERK [瘴気耐性-1][自然補正-1][人間恐怖症][不信]
★起動中システム [ドゥームダウン][耕作ファームランド]
★待機中システム
浄樹の化身ってPERKにレベルが付いてる……なるほど。俺が精霊もどきである以上、自分の核となる自然がなければ力も出ないというわけか。
今ここでやるべきことは終わったと思っていいだろう。
チラリと簡易拠点の出口に目を向ける。出て、やるしかねぇな。肥料も食料も水も衣服も、全部ない。なら、禁獣殺して奪うしかない。
幸いうちの集落でも殺せるレベルの禁獣しか居ないんだ。俺だってやってやる。だが、体格的にも少し厳しいのは事実だ。
どうにか罠を作れないか?
ピコン!
『木の罠を思いつきました!』
『石の罠を思いつきました!』
『クラフトテーブルを開きます』
★石の罠
★必要な材料
石材×30
思った通りだ。にしてもコスト削減PERKが常態化してるってのに、ずいぶんと重たいコストだ。まぁ腐るほど石材はあるから作れるけど。
ギコギコガンガンと、石を削る音やチェーンソーの音が聞こえる。
できあがった。こいつを拠点周りに設置して……。禁獣を狙うならヴァグが一番勝ち目があるだろう。だがどうする? おびき寄せるための餌がない。
身体張って、やってみるか。俺にはあのクズ共を殺す使命がある。もたもたしてたらあのクソ共だって野垂れ死ぬかもしれない。
殺すのは、俺だ。
▽
ピィィィィィィン____。
奇妙な音が響いていた。枯れ木と石だけの荒野に、甲高い鳥のような音が。
大きな甲高い音が、地面を伝わり地上の全てを振動させる。
さぁ、来いよ。おあつらえ向きに獲物が立ってるんだ。わざとべったり地面に足から手までつけて、居場所を知らせてやってんだ。そりゃ来ないわけがねぇ。
ピィィィィィンンン!!____。
どんどん音が近づいてくる。目視できる範囲に姿は見えない。
ヴァグという禁獣は超音波のようなもので敵の居場所を把握する。地面をまるで水のように泳ぎ、そして地中から飛び出し、滝登りのように人を丸呑みにする。
自然界ではかなりチートな性能してんだろうが、あいにくこっちも神々特製のチートもらってんだぜ。
振動が強まり、徐々に荒野の地面から、1つのヒレが飛び出す。こちらに向かって全速力だ。時速50kmはある。
そしてついに俺から50mくらいの地点まで迫ったヴァグは、突如ヒレを何かに縫い止められ、その動きを止めることになった。
地中から思わず飛び出し、ビチビチと跳ねている足のないワニのような図体。
大ヒットだ。
こぼれる笑み。俺の勝ちだ。たかが野生動物が、人間に勝てると思うなよ。
総数49個。俺を囲むように設置された大量の石の罠。
『貧者の瞳+2が発動します!』
★石の罠
石の罠。隠密補正がある簡易的な石の罠。己惚れた狩人はその命を持って、狩られる側へ身を堕とす。作成者の発想次第で、如何様にその形を変えるだろう。
昨日拾ったヴァグの抜け殻の場所から、奴らの移動ルートの予想を立て、そしてその方向に多めに罠を用意した。もし真反対から来たら俺は大人しく拠点に引きこもるか石槍で対抗するしかなかったが、賭けに勝った。
今回の石の罠はどういう仕組みかは一切理解できていないが、トラバサミ型、つり上げる型、石でぶん殴る型の3つを設置しまくった。
地中を進む奴らに刺さるのはトラバサミくらいしかないからかなり多めに作ってある。今ヴァグを縫い止めたのはトラバサミの罠だろう。
イカレた性能だ。踏みつけて挟むならわかるが、感知範囲に入った瞬間噛みつきにいくトラバサミとか怖すぎる。
俺は急いでヒレを噛みつかれたヴァグの元まで行き、追加でつり上げ型の罠とトラバサミを投げまくる。
噛みつかれ、つり上げられ、大量に流れ出る紫の血。瘴気の塊だ。触れたら俺も即体調崩すだろうな、これ。
ピィィィィィンンン!!____
縫い止められて動けないヴァグを石槍で攻撃すること数十秒。
『レベルが上がった!』
ぐったりと倒れ込んだヴァグと同時に、俺にレベルが上がったという通知が飛んできた。
とりあえず、インベントリにぶち込んでさっさと帰宅だ。俺は初勝利を噛みしめながら簡易拠点へと帰還した。
滅亡世界の救い方〜ゲームしてたら異世界救っちゃいました〜 歩くよもぎ @bancho0000
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