第3話 食事と情報収集
〈にしても、アミアって素だとそんななんだな〉〈それな〉〈俺も思った〉
気が遠のきそうになって頭を抱えている少女の視界に、そんな気になるコメントが映る。
「そんなって?」
〈ほら、アミアって一見するとすげぇお姫様だからさ〉〈意外と中性的っていうか、若干口悪いんだなって〉〈ギャップ萌えここに極まれりって感じ〉
「あー……」
そう言われると、と少女は自分の姿を見下ろした。
星屑を集めたような青銀の髪に、一番星の如き金色の瞳。顔かたちも妖精に祝福されたといっても過言ではないくらい綺麗だ。
ドレッサーを覗き込んで、ポツリと一言。
「確かに、私めっちゃ可愛いな?」
〈wwwwww〉〈まじかアミアwww〉〈可w愛wいwですww〉
「何笑ってんだよ」
チッと舌を打てば、さらに笑われる始末だった。
「あー、も~笑うなってお前ら……」
──コンコン
しつこいな、と続けようとした少女の声は、ノック音によって遮られた。
ビクリと肩を震わせる少女と、ざわつくコメントたち。
〈誰だ?〉〈初イベ来る?〉
「え、どうすればいいのこれ。どうしよう?」
〈アミア、取りえず返事した方がいい〉〈そうそう、なんか情報もらえるかもしんないだろ?〉〈今がいつなのかとかわかればいいけどな〉
動揺する少女は、その助言に従うことにした。だって、今のまま震えていても何にもならない。
「お嬢様、起きておられますか?」
どうやらノックの主は女性のようだ。そして口ぶりからして恐らくはメイドかそこらの立場の人間だろう。
「え、ええ。起きてるわ」
お嬢様、という設定に従ってそれっぽく喋ってみる。
コメント欄を見ても指摘はないので、間違っていることはないはずだ。
「失礼いたします」
(……あ)
入室の一言とともに現れたメイドを見て、少女はゾクリと背筋を震わせた。
薄茶の髪をお団子に纏めたメイドのハシバミの瞳が、あまりにも冷たかったからである。凍てつくような視線で以て、彼女は少女を見つめていた。
「ようやく起床とは、随分遅いお目覚めですね。全くだらしない。お兄様方とは比べ物になりませんわね。さっさと身支度なさったらどうです」
〈おいおい……〉〈なんだこれ〉〈主人に尽くすメイドの言葉じゃないだろ〉
仕えるべき人間に対してあるまじき発言をするメイドは慣れ切った様子で少女を詰りつつカーテンを開ける。
ギッと音がするほど雑に開けられたそれが耳障りで、顔を顰めた。
「ちょっと、もう少し丁寧にお願いできる? 傷ついちゃうじゃない」
ついでに一言添えたのは、少女の元来の負けず嫌いが顔を出した結果である。
「なっ」
〈つよw〉〈いいぞもっとやれ〉〈叩きのめせそんなヤツ〉
どうやら今までのアミアは文句や言い返すことをしなかったらしい。ぎょっとしたようにこちらを見るメイドに、少女はさらに言い募った。
「それに、その態度は一体なにかしら? 私はあなたが仕えている一家の一人娘よ、わかってるの?」
ギラリと眼光鋭くメイドを射抜けば、彼女は竦み上がって頭を下げた。
「も、申し訳ございません……」
「……わかったのならいいわ。それより」
「ひゃいっ!」
〈ひゃいwww〉〈怯えてらw〉〈せんせー、アミアちゃんがメイドいじめてます!〉
虐めてない! と反発しそうになるのをぐっと堪えて、少女はにこりと笑った。
「お腹が空いたの。何か持ってきてくださる?」
婚約破棄された転生悪役令嬢は配信業にて逆転させる 綴音リコ @Tuzurine0406
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