第2話 見知らぬ世界と配信
「あの、信じられないかもしれないけど......」
少女は現在に至るまでの全てを説明した。
至って真面目に、真剣に困っていることを伝えたいのだが、当のチャット欄といえば。
〈なるほど、そういう設定なわけね〉〈これFTO公式なんかな〉〈アミアってところがポイント高いよなー〉
がっつり設定だと思われていた。まあそりゃそう、仕方がない。少女だって、視聴者の立場ならそう考えたことだろう。
ため息をついた少女は、コメントの中で気になったものを拾った。
「ねぇ。FTOって? アミアって、私のことだよね?」
〈マジかアミアwww〉〈それは流石に草ww〉〈ハイセンス過ぎるだろ......w〉
どうやらおかしな質問をしてしまったらしく、物凄い勢いで笑われている。イラッとして舌打ちすると更に笑われた。
仕方がなく彼らが落ち着くまで待っていると、ようやく有識者からの情報が得られた。
〈FTOってのは、FAIRY TAIL ONLINEの略で、まあオープンワールド型のRPGだな〉〈VRMMOの中でも最新作で、飛ぶ鳥落とす勢いで広まってる〉〈アミアはそれに登場するキャラクターね〉
「ふぅん......成程ね」
詳しい説明にふんふんと頷いていると、何やら不穏なワードが出始めた。
〈アミア、人気だったんだけどなぁ〉〈衝撃の最期だったよな、あれ〉〈黒幕って言葉がぴったりなキャラクターだよな、アミアは〉
「ちょっと待て」
嫌な予感のする単語が次々と流れ始めて、少女は思わずストップをかけた。私の知らない話を勝手に進めるんじゃない。
「なに黒幕って。なに最期って。恐ろしい漢字使わないでよ」
〈アミア漢字読めるんだ〉
「そりゃ読めるだろ。日本にいたけど転生したんだって説明したでしょ」
〈そういやそんな設定だっなな〉〈あまりにもそのまま過ぎてつい〉
「もういいわ......で?」
否定するのも面倒で、さっさと話を進めることにした。
〈ああ、そうそう〉〈アミアはな、とある任務のラストで〉〈命を落とすことになるんだよぉおおああぁああ!!〉
FAIRY TAIL ONLINE、通称FTOは、20XX年にリリースされたVRMMOだ。
ユーフィアと呼ばれる幻想世界を舞台に、プレイヤーは七つの国の問題に巻き込まれ、任務として解決しながら世界の真相を見つける、というのが趣旨である。
任務は大きく分けて三つあり、世界の謎に関するワールド、日常の一コマの延長にあるデイリー、そしてキャラクターの過去や現在に焦点を当てたフィーチャーが存在する。因みに一人で解決するものがソロ任務、複数名で参加するものがマルチ任務として区分されることもある。
アミア=タンザナイトは、ワールドとフィーチャーの任務に登場するキャラクターだ。
とある国のアカデミーでは不穏な噂が流れていた。由緒正しきアカデミーにそんな噂があっては外聞が悪いと危機感を抱いた国王がプレイヤーに調査を依頼する。
アカデミー生である第一王子と共に、プレイヤーは事件解決へと奮闘するのだ。
ところで第一王子には傲慢で性格の悪い婚約者があり、それがアミアである。アミアは第一王子と恋に落ちた平民の娘に執拗に嫌がらせを繰り返し、そして不穏な噂の根源であったことが発覚する。数々の悪行を成した彼女は、パーティの日に婚約破棄を言い渡されてしまう。
〈でもここからなんだよぁ、アミアの見せ場は〉〈痺れたぜ......〉〈俺もう見たくない〉
アミアが悪事を働いていたのは、国の為であったのだ。国の重鎮たちの汚職を卒業式に公衆の面前に晒し出した彼女は、そのまま持ち込んでいた短剣で胸を貫いた。
プレイヤーやキャラクターの絶望しきった表情をみて歓喜の笑みを浮かべながら、アミアは自らの命を絶ったのだ。
〈ステンドグラスの目の前で、すげぇ綺麗だったんだよ〉〈一部で聖女って言われる所以だよな......〉〈俺はもう見たくない〉
「そうだったの......」
神秘的な容姿と天命を背負った悪役という役目も相まって、アミアは主要キャラでないにも関わらず中々人気のキャラクターだったようだ。
〈当時めっちゃ荒れたよなぁ〉〈そうそう、運営に抗議するやつとか現れてさ〉〈今までアミア嫌ってたやつも掌くるっくるだったしな〉
「恐ろしいな」
〈そうなんだよ、怖いだろ?〉〈でも見かねた運営がこの間重大発表したんだよな〉〈そうそう、救世主計画な〉
「救世主?」
それはどうやら、悲惨な死を遂げたキャラクターに焦点を当てた企画らしい。
キャラクターは全部で五名。その第一弾が、アミア=タンザナイトという訳だ。
〈で、よもやこれがそうなのかと思って覗気に来たんだけど〉
「えっ」
思わぬところから飛んできたキラーパスにギョッとする。
〈正直クオリティえぐいし、その線濃厚だよな〉〈むしろ違ったらびっくりだわ〉〈今までの悲しみが報われた気がした(泣)〉
「えぇ〜......」
ちらりと右上のカメラを見やる。ふよふよと浮き続けるそれは、何も言ってくれない。
困ったことになったと、少女は深々と重苦しいため息を吐き出した。
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