月宴

木兎

森祀

はるか昔よりの杜の奥、月のみ影を投げかける宮に、山の精霊らが集いて雅楽を奏でむ。


秋の名月の夜、寂寥せきりょうたる社の奥に、森羅万象の中に浮かぶが如き荘厳なる神秘。


そこには風のごとく集いし精霊ら。箏の雅びな調べ、笛の清らかなる音色、太鼓の重みあり渾身の響き。


虫の声に重なりて夜空に響く音は、月光に浮かぶ精霊らの舞を妖しく彩る。


かく麗しき調べを聞く者は無し。


ただ朽ち果てし社と、月と森のみが、永劫にわたり響かせむ。


夜は更けゆき、東雲しののめ紅々と光りけり。


精霊らの舞と雅楽の音色は次第に遠のきぬ。


やがて森の奥へと姿を消し、宮は再び朽ち果てし社の中に潜む。


日が昇りて陽の光さし射すとき、痕跡など何処にも無く、ただ静寂が満ちるのみ。


はるか昔よりの杜の奥、この宴は尽くる事無く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月宴 木兎 @mimizuku0327

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る