エピローグ


 無事? ライブは終わり、私達は彩白を含めた初めての打ち上げを行った。場所は居酒屋というよりも食堂っぽいところ。初めて自分達で選んだお店だ。

 

「今日はおつかれー!」と言った空奏がタブレットで、当然のようにお酒を注文しようとしている。でも「ダメ」と言って彩白が空奏からタブレットを取り上げる。彩白は素早くウーロン茶を四つ注文した。

 

「……え?」

 

 空奏は困惑した表情を浮かべる。

 

「空奏さんは未成年だよ。……だからダメ」

「いや、えっと……」

 

 空奏の顔は引き攣っている。ま、それが当然だよ。彩白は偉い。

 

「で、でもね! バンドマンは酒とタバコと女って……」

「あぁ、そういえばそれもあったね」

 

 彩白は言い訳をしようとした空奏のポケットからタバコの箱をすっと抜き取る。そして、その箱をぐしゃっと潰してゴミ箱に放り投げた。

 

「ちょ、ちょっとー!」

 

 なんとか取り戻そうと身を乗り出す空奏の顔を彩白は抑える。

 

「ダメ。因みに成人しても許さないから。常に監視する」

「……え?」

 

 空奏の顔が絶望で染まる。監視はちょっと怖いなー。

 

「ならハルもだよ! ね? シロ、そうでしょ?」

 

 そして、遥に矛先を移した。死なば諸共ということだんだと思う。……本当にアホだ。彩白は遥に目配せをする。

 彩白は手を出してただ一言「出して」といった。極限まで冷えた絶対零度の瞳に遥はビビり散らかしている。

 

「ひっ、姫。わ、わかりました」

 

 素直にブツを差し出すと、同じように握りつぶす。そして、斜め上から見下ろすように二人を見る。

 

「二人とも……。次、吸ってるの見たら、殺すよ?」

 

 その声色は茜先生そっくりで、更に震える空奏と遥。

 

「はい……」

「わかった……」

 

 既に二人は肩を窄めて縮こまっている。

 

「ま、いい機会じゃん。やめられてよかったね」

 

 私は頬杖をつきながら、他人事のように言う。

 

「恋青、そりゃないよ」と空奏。

「こはる、鬼」遥は項垂れている。

 

 あまりの横暴さに限界がきたのか空奏が机を叩く。そして、思い出したように叫んだ。

 

「な、ならお酒は? さすがに、それくらいは成人したらいいでしょ?」期待を込めて彩白を見る。

「うんうん」と遥も必死に首を振る。

 

 空奏の言葉に彩白は少し考える。そして「ライブ後、一杯ならいいよ」と絶望の宣告をした。

 私と遥と空奏の三人で顔を見合わせる。

 

「あ、あの。シロさん、私はー……」空奏が彩白に聞いた。聞かなきゃいいのに。

「成人してからだよ。当たり前」彩白の言葉に空奏は項垂れる。

 

 ついでに、私は彩白に聞いてみた。

 

「わ、私は……?」

「え? 当然、恋青先輩もだよ。もしタバコを吸ったら殺すし、お酒は二十歳になってから。許容できるのはライブ後の一杯のみ」

 

 予想通りの答えだ。私は額に手を当てる。

 

「やーい、恋青もだー」

「やーいやーい」

 

 いや、二人にも刺さってますよ……。

 いつの間にか届いていたウーロン茶を彩白が配り、誰も持っていないグラスを勝手にぶつける。

 

「じゃ、カンパイですね」

 

 そう言って、ひとりでに飲み始める。そんな彩白を見て私達は吹き出した。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は、音の中で生きている qay @tarotata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ