いつかの匂い
根本鈴子
いつかの匂い
白い息暗い時知る朝の匂い無償の愛は生まれ出る
茶畑の新茶の香り祖父の腕抱かれ揺られた八十八夜
手を繋ぐ海の向こうの水平線磯の香りや遠き日々から
閉ざされた戦禍の記憶語られる祖母の手からは煙草のにおい
線香と蠟燭灯る部屋の中嗚咽響いた抜け殻となり
しんとした会場の中ピアノの音色を失くしたにおいかな
夢破れ現実知った学び舎の桜の香りしないまま
褪せる色部屋の匂いも夢の中まだ知らずにいた酸いも甘いも
過去の色未だ続くが進まねばあの日のにおいは癒えないままに
甘いままいつまで待てど幼くて桜咲いたら流れるままに
新品のスーツのにおい春の中新たな学びここで見つけん
双極の病現れ無味無臭生きてて良いか悩む日々かな
失敗の連続ばかり学びなく自己陶酔のにおう我
恥ずかしさ覚えながらに道を行くもう戻れないあの日の匂い
甘酸っぱい恋は到底叶わないそれでもいいよとあなたの胸で
石鹸の匂いに包まれ幸せを別れはいつも寂しさ連ね
仕事ない心身抱え見知らぬ地匂い新たに香る日々
澄んだ日々気づけばカーテン閉めていた涙滲むも匂いがすれば
馨しい季節の匂い素晴らしく働く日々のありがたさ
あの日々の匂いは全て今の我創るは未来恵風に乗る
いつかの匂い 根本鈴子 @nemotosuzuko
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