第8話

「本当にいいんだね」

「はい」

「わかった。君の考えを尊重しよう」

 翌日、わたしは田中さんに記憶を消さない決断をしたことを伝えた。

 また神崎さんが困ったときに眼帯を外してあげられるようにっていうのもあるけど、それ以上に昨日のことを忘れたくないと思ったからだ。

「ここでいうのもなんだが、燈火のことをよろしく頼むよ」

 ?どういうことだろう?

「クラスで浮かないかとかね」

 あ~、うん。それはなんとなくわかるかも。

「でも神崎さんはそんなこと気にしない気がしますけどね」

「それもそうか」

 ピンポーン

 インターホンが鳴った

「沙羅~!ちょっと出てくれる~?」

 リビングからママがそう言ってくる

「はーい!すみません。呼ばれたので切りますね」

「ああ。ではまた」

 田中さんとの通話が切れる。

 わたしは自分の部屋を出て玄関に向かう。

 こんな朝早くに誰だろう?

 疑問に思いながら玄関の扉を開ける。

「おっはよ~!」

「か、神崎さん⁉」

 扉の先で待っていたのは制服姿の神崎さんだった。

「いったいどうしたの?」

 そもそも家の場所言ったかな?

「私にかかれば、相手の拠点を特定するだなんて造作もないわよ!」

 本当にそうだとしたらとんでもないことだよ!

 はぁ、まぁ田中さんに聞いんだろうな。

 いや、それでも住所特定だなんてとんでもないことだけど。

「こんな朝早くから何かあったの?」

「ちょうど朝の修業が終わったから一緒に学校に行こうと思ってね」

「・・・わたしこれから朝ごはんなんだけど」

 まだ学校が始まるまで2時間はある。

 さすがに今から登校するのは早すぎる気が。

「あら?沙羅、この子は?」

「あ、ママ!」

 気になったのかママが様子を見に来た。

「えーっと、この子は」

「初めまして!私は獄炎の支配者神崎燈火!我が名をその魂に刻むがよい!」

「ス、スト―――――――――ップ!!!」

 わたしは神崎さんの口をふさぐ。

「えっとね、同じクラスの神崎さん。一緒に学校に行こうって誘いに来たらしいんだ」

「なにするのよ!!」

 神崎さんが小声で抵抗してくる。

「なにするのよじゃないよ!人の母親に何言ってるの!」

「だからこそしっかりと名乗ったんじゃない!」

 こそこそと言い争っているわたしたちを見たママは「ふふふ」と笑いをこぼした。

「面白い子ね。まるで昔の沙羅を見ているみたい」

「ちょっと!今その話はいいでしょ!」

 わたしの抗議を意に返さずママは「そうだ!」と手を打つ。

「よかったら朝ごはんを一緒に食べない?そうでなくてもうちでゆっくりしていかない?まだ時間はあるわけだし」

「いや、それはさすがに」

 こんな朝早く来たってことは何か急ぐ理由があるはずだし。

「その誘い、ありがたく受けさせてもらうわ!どうせ早く行っても暇なわけだし」

 いいんだ。そして急いでいく理由は特にないんだ。

「よかった!さ、はいってはいって」

「おじゃましまーす!」

 神崎さんは意気揚々と家の中に入る。

 はぁ、まぁ神崎さんが一緒でも特に困ることはないからいいか。

 ・・・ないよね。

 そう思いながらわたしも家に入った。

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世界を救う中二病 月夜アカツキ @akatsuki0707

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