第7話

 あれ?攻撃が飛んでこない。

 影のほうをみると、攻撃を仕掛けてきた紐は赤々と燃えている。

 思わず神崎さんのほうをみる。

 神崎さんの髪は炎のように赤くなり、マフラーは燃え盛る炎となっている。

 眼帯に隠されていた瞳は金色に輝き、元から出ていた左目も赤黒く変化する。

「神崎、さん?」

 思わずそう尋ねる。

 神崎さんは静かにわたしの顔を見る。

「我が眠りを覚ましてくれたこと、心から感謝するわ」

 さっきまでとは違う雰囲気。

 神崎さんはまっすぐ影を見つめる。

「さて、さっきまではよくも好き放題してくれたわね。覚悟はできているんだろうな?」

 ゾッ!!

 身の毛もよだつほどの威圧感。

 それともに神崎さんの足元から炎が湧き上がる。

 影の動きも一瞬止まる。

「心配しなくても大丈夫だよ。あれは正真正銘の燈火だから。本質は何も変わっていない」

 わたしの不安を察してか田中さんがそう声をかける。

「さて、とはいえここだと危ないな。少し離れていよう」

 田中さんの言葉でわたしは少し離れたところからそっと見守る。

 本来は静かな夜。

 だからこそ、神崎さんの声がよく聞こえる。

「さて、それじゃあいくぞ!」

 炎を残して神崎さんの姿が消える。

 一体どこに⁉︎

 影も神崎さんの姿を捉えきれていない。

 とたん、あたりが明るくなる。

 はっと空を見上げる。

 そこには幾重にも重なった魔法陣掲げながら空中に止まっている神崎さんの姿があった。

 影も気づいたようで、すぐさま攻撃を放つ。

 が、どれも神崎さんを当たる前に燃え尽きてしまう。

 それを見た影は身をひるがえして一目散に駆け出した。

 逃げられる!!

「逃がすわけがないでしょ」

 魔法陣がより一層輝きだしながら影の上下に移動する。

 神崎さんの右目が赤く輝き始める。

「我が魔眼に宿りし業火の魔神よ、生きとし生けるものを焼きつくす地獄の業火よ、我が命に応じ、彼のものを燃やし尽くせ!獄炎挽歌!インフェルノレクイエム!!」

 今までとは比べ物にならないほどの炎が影を包み込む。

 これまでの炎とは違い、その熱さまでもが伝わってくる。

 さらに炎は波のように魔法陣の中を渦巻いている。

 しばらくしたら魔法陣が消え、しだいに炎も落ち着いてきた。

 影がいた場所にはまだ燃え盛っている炎と、焼け焦げた地面があるのみ、影の姿はどこにもない。

「どうやら燃え尽きたようね」

 そういいながら神崎さんが降りてくる。

「神崎さん!大丈夫?」

「ええ。問題ないわ」

 あ!そういえば!

「はい、これ」

 わたしは神崎さんに眼帯を返す。

「ありがとう」

 そういって神崎さんは再び眼帯をつけなおす。

「あれ?もう一回封印してよかったの?」

「久しぶりに開放して疲れたからね」

 たしかに眼帯をつけなおしてもいつもみたいな元気はさすがにない。

「それに、また開放する必要があったら、勇者が封印を解いてくれればいいでしょ!」

 わたしかい!いや、そもそもわたしは勇者じゃ

「さて、帰りましょうか。沙羅」

 !!

「名前、てっきり覚えてないと思ってた」

「わたしを何だと思っているのよ!」

「ふふふ」

 わたしがそう笑うと、神崎さんも次第に笑い始め、しばらく二人で笑いあった。

 そんなわたしたちをみて田中さんは微笑みながらそっと連絡を切った。

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