第6話

 神崎さんの家から帰った日の夜、わたしは1人部屋から外を見ながら考え事をしていた。

 全てを忘れる、か。

 きっと普通の高校生活を送るのならそれが1番なんだろう。

 わたしもそれを望んでいるはずだ。

 なのになんでだろう。どこか迷っている自分がいる。

 はぁ、どうしたらいいんだろう。

 その時、遠くに赤く光る柱のようなものがのぼるのが見えた。

 あれは、炎?

 もしかして神崎さん⁉︎

 わたしは急いで玄関に向かう。

「ちょっと!こんな時間にどこに行くの?」

「友達の家に忘れ物したから取ってくる!」

 後ろからママの呼び止める声がするけど気にしてる暇なく一心不乱に走り出す。

 夕方のあれを見るに神崎さんなら問題ないはず。

 わたしが行っても何にもならないと思う。

 でも、なんだか胸騒ぎがする。

 走る走る。

 はぁはぁはぁ

 炎が近くなる。

 少しずつ声が聞こえてくる。

「しつこいわね!灰燼とかせ!クリムゾンフレア!」

 あたり一体に炎が吹き荒れる。

 炎が止むのを待って近づくと、そこには息を切らしながら戦っている神崎さんと、夕方に見たやつとはまた姿が違う影がいた。

 人型なのは一緒だけど、後ろから紐のようなものが出ている。

 どうやらあの紐で体を覆うことで炎を防いだらしい。

 影が紐を何本もの槍のようにして神崎さんめがけて放つ。

 神崎さんは炎で加速しながらなんとかその攻撃をかわす。

 しかし、全てかわしきった後神崎さんはその場で膝をついてしまう。

 影がニヤリと笑った気がした。

 影が再び紐を放つ。

「あぶない!」

 わたしは咄嗟に飛び出し神崎さんと共に横に転がる。

 さっきまで神崎さんがいたところに突き刺さる紐。

 危なかった・・・

 すぐさま近くの草むらに隠れる。

「勇者?勇者じゃない⁉︎どうしてここに⁉︎ここは危ないわよ!」

 わたしに気づいた神崎さんが驚きながらそう言った。

「神崎さんだって今危なかったじゃん!」

 その言葉に神崎さんは「うっ」と言葉を詰まらせる。

「それは、まあ、確かに。・・・ありがとう」

「どういたしまして。それより、早く逃げよう!」

 だけど神崎さんは首を振る。

「逃げるわけにはいかない。あいつを倒さないと」

「でも、どうやって!」

「わからない。でも、やらないと」

 無茶だ。神崎さんはふらふら、対してあの影はまだまだ余裕そうだ。

「そうだ!勇者が一緒に戦ってくれたら・・・」

「無理だよ。無理なんだ」

 もう、わたしにはできない。

 その時、わたしと神崎さんのスマホが同時になった。

「もしもし、聞こえているかな?2人とも」

 この声は

「田中さん⁉︎」

 画面に大きく田中さんの姿が現れる。

「一体どうしたのよ?」

 神崎さんの疑問はもっともだ。

「時間がないから手短に話そう。燈火、君の右目の眼帯は飾りかい?」

 こんな時に何を聞いているんだ?

 そんなの飾りに決まって・・・いや、そっか!

 神崎さんもハッとした表情になった。

「そうだわ!私にはまだこれがある!でも、」

 やっぱりあれも何か意味があるようだ。

 だけど『でも』ってなんだろう?

「これは私の強すぎる力を封じるために課せられた封印。私では解除することができないわ」

 そんなとこにまで設定をつけなくても・・・

でも、じゃあどうしたら。

「ボクの見立てでは結城君にならその封印が解けると思うんだ」

 わたし?

「そうだ。君ならきっとできる」

「神崎さんはそれでいいの」

「やってみる価値はあると思うわ」

 そう言って神崎さんが顔を近づける

 その時、影が再び攻撃の動作を見せた。

 まずい!

「急いで!」

 田中さんの焦りの声で、わたしは神崎さんの眼帯に手をかけ、眼帯を勢いよく外した。

 それと同時に影の攻撃があたり一面に襲いかかった。

 

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