第5話

 目が覚めたら知らない家のソファで寝ていた。

 ここは、どこだっけ?

「あ!死の淵から目覚めたようね!」

 神崎さんがそう言って奥からやってきた。

 あ、そっか。今神崎さんの家にいるんだった。

 って!

「本当に死ぬかと思ったよ」

 まだ喉がヒリヒリする。

「水をもらってもいい?」

 汗をかきすぎて喉がカラカラだ。

「いいわよ。聖水を与えてあげるわ」

 聖水?

 神崎さんが持ってきたのはスーパーに売っているごく普通の天然水・・・って!

「水あるの⁉︎」

 わたしの叫びに神崎さんは「当たり前じゃない」と言う。

「いくら獄炎の支配者と言っても水を飲まなきゃ力が出ないわ」

 じゃあさっきわざわざ買ってこなくてよかったじゃん。

「こんなの来客に出せるはずがないでしょ」

 来客にあれを出すのもどうかと思うけどな。

「おいしいんだけどな」

 うそでしょ。

 はぁ。なんか今日は色々とあって疲れたな。

「そろそろ帰ろうかな」

 時計の針はすでに8時を指している。

 親に何も言ってないからそろそろ帰らないとな。

「そう?まぁあなたは私が引き止めらことができるような人物ではないのでしょう。いいわ!帰ることを許してあげる」

 許しがなきゃ返してもらえないのだろうか。

 でもなんにせよわたしは帰る準備をして玄関に向かった。

「お邪魔しました」

「またいつでも来るといいわ!では、さらばだ!」

 いやそれはどちらかというとわたしがいう言葉じゃ・・・

 そう思いながら帰路に着く。

 なんか神崎さんのイメージが私の中で変わった気がする。

 少しは明日からの学校に対して気が楽になったのかな?

 そういえば。

「何か考え事かい?」

「そうなんですよ。ちょっと気になることがあって」

 って!

「田中さん⁉︎」

 一体どこに⁉︎

「ここだよ」

 まさか。

 わたしはポケットからスマホを取り出す。

「やあ!」

 そこには笑顔の田中さんが映っている。

「え、これって一体どうなってるんですか⁉︎」

「ボクにかかればこれくらいなんてことないさ」

 いや、さも当然のように言っているけどわたしでも簡単なことじゃないことくらいはわかる。

 この人、普段なにしてる人なんだろう。

「今日は災難だったね」

「本当ですよ。死ぬかと思いましたよ」

「ははは。さて、それは置いといて、何か気になることがあるんじゃないのかい?」

 置いとかないでよ。

 そう思いながらもわたしは疑問に思ったことを聞いてみることにした。

「あの漆黒の闇騎士団とかいうのが見える人が中二病になるんですか?」

「いやそうではない。君も知っていると思うが、中二病になるきっかけは奴らではない。正確には中二病になったものが奴らをみることができるんだ。つまり彼らの想像力が奴らの姿を見せているといるということだ」

「でもそれってつまり何も知らない子がいきなり戦うことになるんじゃ!」

「そうなるな」

 そうなるなって・・・

「そのためにボクらがいる。ボクらが彼らに状況を伝え、アドバイスやどう対処すればいいのかを伝えるんだ」

「田中さんって本当に何者なんですか?」

「それは内緒だ」

 内緒って・・

 あれ?

「『ボクら』ってことは他にもそんな人がいるんですか?」

「ああ。ボクらは様々なところから君たちを観察して奴らに関する情報や、仲間を探している」

 なんか怖い!

「心配せずとも何かに悪用するつもりはないさ」

 いや、そう言われても

 ここまで普通に話していた田中さんが急に真剣な表情になった。

「結城君。今日聞いたことを全て忘れたいと思うかい?」

 え?

 どういうこと?

「君が忘れたいというならボクは君の記憶を消すことができる」

 ゴクリ

「それって、今日の記憶が全部なくなるってことですか?」

 わたしの質問に田中さんは「そうだ」と頷く。

 普通の高校生活を送りたいのなら同意する方がいいんだろう。

 でも、どうしてかおねがいしますということができない。

「まぁ、いきなりこんなことを言っても仕方がないか。ただ長引くと結城君への影響も大きくなるから今日一晩考えて、明日また返事を聞かせてくれ」

 そう言い残して、田中さんは画面から消えた。

 もう一度スマホを開いても、そこにはいつも通りの見慣れた画面があるだけ。

 急に現れて、急に消えていったな。

 どうしようかと考えながら、わたしは暗い帰り道を再び歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る