3章
第10話
「席についたばっかりでごめんなんだけど、実は指名のお客さんが30分くらい前から来てるんだって。だからそっちのお客さんのところ行ってくるね。」
そう言ってみはるさんが席を離れていく。
正直寂しいしもっとお話をしたいが、みはるさんの稼ぎのほぼ全ては自分以外のお客さんが来るから、というのを思い出し少しの間の我慢だと言い聞かせる。
「こんばんは。お隣お邪魔してもいいですか?」
みはるさんが席を離れるとすぐに代わりの女の子がヘルプとしてやってきてくれる。
「初めまして、あかりといいます。よろしくお願いします。お名前お聞きしてもいいですか?」
横に座りながら挨拶をしてくれ、自分も会話を続けていく。
「初めまして、のぞむです。お店は長いの?」
「ううん、まだ3ヶ月くらいです。初めてのお店なので夜の世界もこのお店からスタートしました!のぞむさんはみはるさんとは長いんですか?」
「そうだね、お店はたまにしか来れないんだけど、みはるさんを指名するようになってもう一年くらいかな?」
「そうなんですね!みはるさん綺麗だし、人気あるの分かりますよね。今日ものぞむさん以外にも何組か来られてるみたいだし、忙しそうですよね。」
そんな話をしていると不意に遠くの方で黒服さんの大きな声が聞こえてきた。
「みはるさんの大切なお客様よりアルマンドをいただきました!!ありがとうございまーす!!」
「席についていきなりアルマンドはすごいねぇ。。。」
「そうですね!あのお客さんはよく来られますが、毎回アルマンドをご注文されてますね。」
あかりさんから聞いた内容に驚きながら本音が溢れる。
「まじか、それはめちゃくちゃ太客だね。僕みたいな人間からしたら違う世界すぎる。」
「そんなことないですよ。女の子からしたらお店に来てくれるだけでも嬉しいですよ。結局は売り上げもですけど、同伴とか指名数も評価に入ってくるので、私もいつも困ってますから。」
みはるさんにもよく言われることを、あかりさんからも聞くと、対して売り上げのない自分でも同伴や指名でみはるさんの役に立てていることを思うと少し嬉しくなる。
でも何かしてあげたいな。そう思いお店のメニューから比較的安いシャンパンを黒服さんにオーダーする。
「すみません。みはるさんが席に戻ってきたら1本ボトルをお願いできますか?」
「わかりました。のぞむさんいつもありがとうございます!あと、こちらサービスのフルーツ盛り合わせです。みはるさんが戻ってくるまで少しお持ちください。」
黒服さんからのサービスをあかりさんと食べながら、また話に戻る。
「みはるさんが帰ってきてからボトル開けるなんて優しいですね。今ここでお願いすればみはるさんも帰ってきてくれるのに良かったんですか?」
「うん、結局はまた向こうの席に戻ったり慌ただしくなるだろうし、ゆっくり時間を取れるようにしてからの方がいいかなってね。あとは、アルマンドって聞いたら同伴した人が何もなしはカッコ悪くない?」
笑いながら言うと、あかりさんが勢いよく否定してくれた。
「そんなことないですよ!こんなに気を使ってくれるお客さんなんていないですよ!」
今日は自分のメンタル的に弱っていたのかもしれない、あかりさんにそう言われつい本音がこぼれてしまった。
「そっかーみはるさんが大好きで嫌われたくないから、お行儀よくしてるんだけど、ちゃんと意味があったんだね。」
単なるお客の一人だとしても、自分の立ち振舞いがみはるさんの負担になっていなかったのであれば良かった。
そんなネガティブなことを思っていると、みはるさんから連絡が入る。
<お客さんが今からお会計してお見送りするから、予定より早くそっちに戻れそう!もう少しだけ待ってね。>
「いいことしてたからかな?みはるさんが予定より早くこっちに戻ってくるってさ」
そういいながらきっと顔がだらしなくニヤけているんだろう。
それでもあかりさんは優しく返事をしてくれた。
「そうなんですね!それは良かったですね。サプライズシャンパン喜んでくれるといいですね。」
そう会話しながらみはるさんがお客さんをお見送りのために席を立ったのを見ながら、早く戻ってきて欲しいなと考えてしまう。
夜明けからの逃亡 @karudera1234
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夜明けからの逃亡の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます