第9話

のぞむさんの席について20分ほどおしゃべりを楽しんだところで、申し訳なさそうにお願いをする。


「席についたばっかりでごめんなんだけど、実は指名のお客さんが30分くらい前から来てるんだって。だからそっちのお客さんのところ行ってくるね。」


「うん、了解。頑張ってきてね。」


「ありがとう。少ししたら戻ってくるね!」


そう言い残してお客さんの席に向かう。

横目でまた、女の子がのぞむさんの席にヘルプで向かうが、今はそこを気にしている余裕はない。

席に向かっていると、指名客がいつものオヤジなのがわかったから。


「遅くなってごめんね。今日は同伴だったからすぐに席に来れなかったの。」


「おせーよ、みはる。せっかく来てるのに待たせるなよ。」


開口一番にこの返答。さっきまでの幸せな気分は吹き飛んでしまった様な気分になる。


「ごめんね。せっかくなら太田さんも連絡してくれたら同伴の予定とかお伝えするし、そこまで待ってくれるなら今度同伴して一緒にご飯食べに行かない?」


少しでも機嫌を直してもらえるように、営業っぽくならないように気をつけながらお誘いをしてみるが、太田さんのお気に召す回答ではなかったみたいだ。


「同伴はいいよ、お金かかるしご飯も俺が払うんだろ?ここで飲んで楽しもうぜ」


私の胸や足に向かっているのが丸わかりな視線をしながら、返事をしてくる。

たくさんお金を使ってくれるお客さんの一人ではあるが、正直苦手な人なんだよなぁ。

お金を使えば簡単にキャバ嬢とアフターしてそのままホテルに行けると想っている節がありありと分かる会話をさせられるのは本当に疲れるし・・・


「おい、みはるがせっかく来てくれたし、アルマンド飲もう。スタッフ呼んでくれ」



そんなことを考えていると、いつものように太田さんがボトルを入れることにしたらしい。

きっとこの後にいつものお約束が来ると思うとめんどくさいが接客業である以上手は抜きたくない。

この場ではその思いだけで仕事をしている気がする。


「いいの?ありがとー!じゃあお願いするね。」


「おう構わねーよ。それでどうだ。今日は終わったらアフターで遊びに行かねーか?」


ほらやっぱりそうきた。

誘い方も乱暴だし、そのままホテルに連れ込もうという魂胆しか見えない表情で誘われてOKする子がいるのかな。

申し訳ないけど、この人だったら一晩1000万でもアフターすることはないな。

そう気持ちを再確認しお断りをする。


「ごめんなさい。せっかくのお誘いなんだけど、明日の朝が早いからアフターで遅くなると大変だからやめておくね。開けてればいいんだけど、ついつい予定を入れてないと落ち着かないから朝から動いちゃうんだよね・・・」


「ちっ。じゃあ仕方ねぇな。まぁいい、次のチェックで会計するように言っておいてくれ。」


太田さんのいいところは諦めの早いところだなぁ。

これが他のお客さんだと粘ってなんとかしようとしてくるが、ダメなら無駄金を使わずさっと帰ってくれるのが本当にありがたい。

この人の唯一の褒めれるところかな。


その後も、すぐに帰るというので、席でお話をしてお見送りする。

「今日は早く来てくれたのに、同伴で遅くなってごめんね。また今度ゆっくりお話ししようね。」


そう声をかけると、


「おう。また遊びに来るわ。そん時はアフターしような。」


「気を付けて帰ってね!」


この人は本当に帰ると言ったら帰る人だから、のぞむさんとのアフターを見られたりする心配がないし、安心だわ。


お見送りも終わったし、お店に戻らないと。

のぞむさんとまだ話し足りないし、他の子が横にいるのも嫌だな。


そう思いながら、外を歩くカップルが手を繋いで駅に向かっているのを見つけてしまい少しダウナー気味になる。

早くのぞむさんとアフターしたいな。


そう思いながら、煌々と照明の焚かれた眩しい店内に戻っていく。

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