YELLOW.zip

揺井かごめ

 教室移動のある数学の後、自分の教室に戻るのが好きだ。

 正しくは僕の机の中、箱型のカードケースを確認するのが好きだ。

 今日は、目に鮮やかな黄一色のカードが入っていた。中央には整った『YELLOW.zip』の文字。裏返せば、白地に同じく整った文字が整列していた。

  

 蜂蜜

 向日葵

 カナリア

 子供の帽子

 横断歩道の旗

 ひよこの嘴

 玉子焼き 

 蒲公英

 檸檬


 ──これはまた、挑戦的な。

 僕はマスクの下で小さく笑った。


 このやり取りは、四月の始めからひと月、欠かさず続いている。僕が遊び心で机に忍ばせた『机は烏に似ているか?』のメモは、高校二年の授業一日目、見事誰かに発見された。因みに一枚目の返事は『note / flat / ←(naver)←』。僕は意味が分からずググった。

 数学の授業中、この机に誰が座るのか、僕は知らない。知ろうと思えばいつでも分かるが、今じゃない。

 ──いつか本人から、手紙で聞きたい。


   ◆ ◆ ◆

 

 数学の授業の前、私は最後まで教室に残る。

 彼の姿が無いのを確認して、隣席の引き出しから手紙を取り出す。『立夏.zip』の文字に胸が踊る。

 このやり取りが、ずっと続けば良い。

 ──いつかたった四文字「君が好き」と書く勇気が出る、その日まで。

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YELLOW.zip 揺井かごめ @ushirono_syomen

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