第7話 押し倒す

 あれから二日もの時間が経った。未だどこかに着く様子はなく淡々と前へと進んでいるだけだった。二日間の間に起こったことと言えば、みどりに幾度も襲われそうになったことだ。


 本当に辛かった。まさか寝込みを襲われるとは思いもしなかったが、悪戦苦闘の末なんとか私の貞操を守ることが出来た。


 みどりは悔しそうな表情を浮かべていたが私からしたらたまったものじゃない。危うく私の初めてが無理やり奪われるところだった。ある意味私は運が良いのかもしれない。


 だからといって寝込みを襲われるのはあまりいい気はしない。襲うんだったらせめて起きてるときにしてほしい。じゃないと、愛がわからない。


 本当の愛を知りたい。私を心から愛してくれるようなそんな人からの愛がほしい。寵愛だとか親愛だとかそんな愛は私の求めてる愛ではない。特別だけど本当の特別ではない愛は私が求めてるものじゃない。

 だからみどりが持ってるのはきっと愛じゃない。肉欲とかきっとそういう類のものに違いない。私を愛してくれる人はこの世に存在しないのだから。結局は私の身体が目当ての性欲に目がくらんだどうしようもない人に決まってる。


 だって人は単純な存在なのだから。








 私達はただただ道に沿って歩いている。道がある限り私達の前には未知なものが現れる。


 だけども流石に何もなさすぎはしないだろうか。辺りには平らな地面が広がっているだけ。それ以外には特にあるわけでもない。あるとすれば建物らしきものの残骸だろう。


 あるからといって興味があるわけではない。過去にこの地に起こったことことなど私には関係のないことなのだから。


 私は残骸に気にもずそのまま歩き続ける。しかし、なぜかみどりは立ち止まって建物の残骸を眺めていた。その様子は悲しみと怒りに満ちていて、とてもじゃないが話しかけることができそうな雰囲気ではなかったが私はそのままみどりに近づく。


 「みどり・・・?」


 「・・・唯化はこの光景を見て何も思わない?」


 「特別なにか思うわけではないけど・・・」


 「そう・・・」


 みどりは私の方に振り返りじーっと見つめてくる。生気が失っているかのような瞳に私は恐怖を感じる。


 昨日のあの私を襲ってくるみどりとはまるで別人かのようだ。瞳には生気が宿ってないし、声は少しばかし低音になっている。どうしてこんな風になってしまっているのか私は疑問を浮かべる。


 みどりは私と同じ世界の人間のはず・・・いや、みどりは私と同じ世界から来たとは一言も言ってない。じゃあ、どうしてそんな表情をしているのだろうか?


 「ねぇ、みどり・・・?」


 「・・・ごめんね?ちょっと考え事してたの・・・」


 気づいたらみどりの表情はあの暗い表情から昨日までの明るい表情に戻っていた。当の本人は考え事をしていたと言っているが、見え見えの嘘だということぐらいわかる。あの暗い表情はどうやってもごまかすことは出来ないだろう。


 「嘘ついちゃうんだ・・・私のこと襲おうとしたくせに」


 「・・・嘘ついてないし、唯花が可愛いのが悪い!だから責任持って襲おうとして

 るの・・・!」


 みどりは大きい声で私に向かってそう言葉を発する。思ったよりも声が大きかったためみどりの声が空気中で響く。


 言っていることが全く持って理解できないし、理解したいとも思わない。みどりは私のことが可愛いとか言っているが私は全くもって可愛くなんてない。顔だってそうだし、なにより性格が到底可愛いとは言い難いような性格してるのに。一体私のどこが可愛いのだろうか。あと襲ってる理由が到底私と同じくらいの子から出るセリフじゃない。


 「みどりは嘘ついてるし、私は可愛くなんてない・・・!」


 「・・・わかった、嘘ついてるのは認める。けど、唯花は可愛いよ!」


 「・・・どこが」


 私がそう言うとみどりは軽く深呼吸をし始める。その瞬間私はとてつもなく嫌な予感がするのを感じる。わざわざ人の寝込みを襲おうする人が普通なわけではない。それは言動にも言える。


 そんなことを思っていたのもつかの間、みどりは私の手を握ってくる。急に握られたのでみどりの顔を見てみると瞳にはハートマークが浮かび上がっていた。


 「耳に息を吹きかけたときの表情と少し裏返ってる声。あとなぜか普通の下着じゃ

 なくて紐パンを穿いてるところとか・・・背伸びしてる感じがしてとても可愛い!

 でも、その年で紐パンは早すぎると思う」


 案の定ろくな回答がこなかった。少しでも期待してしまった自分が愚かで恥ずかしい。でも何で私が紐パン穿いてることがバレてるのかがとても謎。心があたりがあるのだとすれば寝込みを襲ってきたときだろう。

 

 つまり私だけが一方的に見られたということなのだろうか。許せない、不公平にも程がある。


 「じゃあ、みどりも穿こうよ?」


 「私はちょっと遠慮したいかなって」


 みどりが私の手を離して逃げようとしたため、私はみどりの手首を瞬時に摑み逃げられないよう力を込め、そのまま地面に押し倒したのだった。




 


 

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知らない世界で旅をする! 桜なの @yumanini

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