絶対防衛線のNTR部隊(後編)

 海から現れた甲殻系の怪獣は、予想を上回る強敵だった。分厚い装甲に守られた巨体は、僕のガーディアンの遠距離攻撃を難なく弾き返す。


 苦戦は避けられなかった。


 だが、上陸を試みた瞬間を捉えた迎撃は、自衛隊の支援もあり効果的だった。


 正確無比な自衛隊の射撃を目の当たりにし、銃火器の扱いに不慣れな僕は驚愕を隠せなかった。


(さすが、本物の兵隊さんは違うな)


 そう感心しながら、攻撃で動きを止めた怪獣の急所にガーディアンのヒートブレードを突き刺した。


「やったか」


 つい口走ってしまったお約束な言葉に後悔していると、案の定、怪獣は不気味な音を立てて再び動き出した。


「飛んだ!?」


 怪獣は後方へ大きくジャンプし、水しぶきを上げて海中へと沈んでいった。


「……で、でも、か、勝ったよな?」


 しばらく怪獣の体液に染まる静寂の海を見つめ、再浮上の気配がないことを確認し、安堵のため息をついた。


 だが、その安らぎもつかの間、新たな報告が飛び込んでくる。


「裕一くん、大変よ! 街に別の怪獣が現れたわ!」


 博士の切迫した声が、通信機から響く。


「街に! なんだって!? わかりました。すぐに向かいます!」


 僕はガーディアンを駆って、街へと急ぐ。


 現場に到着すると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。


 黒光りする巨大な怪獣はすでに上陸を果たしていた。


 口から放たれる巨大な火球は、街の一角を容易に破壊し尽くす。悲鳴を上げて逃げ惑う人々。パニックに陥った街は、まさに地獄絵図と化していた。


「僕の生まれ育った街のすぐそばでこんなことが起きるなんて……」


 子どもの頃から自転車で何度も訪れた場所だけに、ショックは大きかった。信じられない光景に、僕は思わず立ちすくんでしまう。


「今は悲しんでいる場合じゃない」


 まだ街中には多くの民間人が取り残されている。


 この状況下では、自衛隊も本格的な攻撃に踏み切れないだろう。


 なんとか民間人の避難する時間を稼ぐため、怪獣の動きを止めなければならない。


「それができるのは僕だけだ!」


 覚悟を決めて、ガーディアンの操縦桿を力強く握りしめた。


 これまでの怪獣よりもさらに一回り大きな体格に恐怖を感じつつも、気持ちを奮い立たせて怪獣の足元に取り付いた。


 片手に装備されたブレードに熱を帯びさせる。片側が熱されたそれは、怪獣の硬い皮膚をも切り裂く切れ味を持つ。


 踏みつけられれば、さすがのガーディアンも持たないだろう。


 慎重に怪獣の動きを見極めながら、至近距離から怪獣に攻撃を仕掛ける。


 ヒートブレードを振るい、脚に深々と切りつける。火花が散る中、必死に怪獣の注意を引きつけ、人々の避難する時間を稼ぐ。


 ひとまず怪獣が苦しみ、動きを止めることに成功した。


 一旦距離を取り、カメラを向けて周囲の状況を確認する。


 その時、県民ホールの異変に気づいた。


 そこでは、スタトリのコンサートが行われているはずだ。だが、先ほどの火球の攻撃の影響でホールの壁に亀裂が走り、今にも崩れ落ちそうだ。


「拓は無事か?」


 ジャンプして上空から確認する。


 コンサートの観客の大多数はすでに避難済みのようだった。


 だが、まだホールの前に取り残された観客がいる。


 そして、少し高い位置から観客を誘導指示している少女の姿があった。


「あれは……スタトリの……」


 拓が推しているアイドル、朝倉結実だ。


 いつも映像を見せてもらっていたので、その姿は脳裏に焼き付いている。


 今も、白と水色のドレスのような目立つアイドルの衣装を身にまとっていた。


 目立つことで、誘導の目印になるという利点はあるが、焼け崩れた周囲の中で危険を顧みずにスタッフの一人として最後まで残る姿は、神々しささえ感じられた。


「しまった!」


 動きを止めていた怪獣が、再び火球を吐き出そうとしている。


 まさか、朝倉結実の姿が怪獣の目にも眩しく映ったわけではないだろうけれど、彼女のいる方に火球が放たれるのが見えた。


「防ぐしかない!」


 僕は急いで地上にガーディアンを着地させた。

 この機体が破壊されれば、もう人類にとって大損害なのだけれど躊躇している時間はなかった。


 朝倉結実を、そして後ろの観客を守るため、ガーディアンの両手を大きく広げて火球を受け止めようとする。


 轟音と激しい衝撃。


 先ほどよりも火球は小さかったため、なんとか防ぐことができた。


 砕けた火球の残骸が周囲に散らばる。


「大丈夫か、ガーディアン」


 熱でダメージを負っていないか心配したが、問題なく動いてくれているようだ。僕は博士たちの技術力に素直に感謝した。


「裕一! 裕一か?」


 聞き慣れた声が、近くから聞こえてきた。


「拓! 無事か」


 僕はコックピットのハッチを開けて親友の無事を確認する。


 同時に、朝倉結実とも目が合った。


 先ほどまでの民衆を導く自由の女神のような勇ましさはなく、さすがに座り込んで怯えたような表情を浮かべていた。


 それでも、冷静にこちらを見据える瞳の輝きは印象的だった。


「拓! その娘と残りの観客も連れて、一本松の橋のところに行ってくれ。そこに地下へと通じる通路がある!」


「わ、分かった!」


 拓はそれだけ言われるとすぐに理解してくれたようだ。


 遠慮がちに、推しのアイドルの手を取り、避難を促した。


「分かりました。橋の方ですね」


 先ほどまでぺたんと地面に座り込んでいた結実は、拓の手を借りるまでもなくするりと立ち上がった。


「皆さん! あちらの橋です! そちらから地下に避難してください!」


 結実は、大きな声で逃げ遅れた観客に呼びかける。パニックに陥る人々を落ち着かせ、避難誘導を試みているのだ。


 さすがによく通る声で、動揺していた観客たちを一瞬で落ち着かせた。


 その姿は、アイドルというよりも、たくましいリーダーのようだった。


「博士! 地下通路の開放と誘導をお願いします」


 朝倉結実と拓を見送りながら、僕は博士に通信を入れる。


「裕一くん、よくやったわ! 被害は最小限に抑えられたみたいね」


 博士の明るい声が聞こえてくる。


 もう少しすれば、自衛隊も本格的な攻撃に移れるだろう。


「でも、残念ながらまだ油断はできないみたい」


 博士から諦めに似た言葉が聞こえてくる。


「もう一体の怪獣の反応を捉えたの」


 博士の言葉に、背筋が凍りつく。


 自分の目でも確認できた。先ほど海岸で戦った甲殻類のような怪獣が、大きな怪獣に寄り添うように現れたのだ。


 絶望している暇もない。疲弊した心身を奮い立たせ、僕は再び戦いに身を投じるのだった。



「ああ、裕一君、聞こえるかね」


 この激戦の最中、通信機の音が切り替わり、天野司令の声が聞こえてきた。


 そういえば、今日はずっと井上博士が指揮をとっていたことに疑問を抱いていた矢先だった。


「裕一くん、美月くんのことは心配しなくていいよ。すでに安全な場所に避難させてある」


「え? そ、それはよかった」


 戦いに集中しようとしていた僕は、思わずホッと胸をなで下ろした。美月の無事が確認できただけで、それ以上のことは望まない。


 だが、天野司令の次の言葉で、僕の安堵は一瞬にして吹き飛んだ。


「今、美月くんは東京の男子大学生と一緒に安全な場所に避難してもらっているんだ」


「は?」


 意味が理解できない。司令は一体何を言っているのだろう。


「美月くんからメッセージを預かっているから、見せてあげるよ」


 そう告げると、天野司令はビデオ映像を送信してきた。


 画面に映し出されたのは、美月の姿だった。


 それ自体は問題ないのだが、後ろの騒がしさが妙に気になる。


 まるで、どこかの飲み屋の座敷を思わせる光景だった。長い机を挟んで若い男性ばかりが盛り上がっている、まさに新歓コンパのような雰囲気の真ん中に、美月が佇んでいる。


 カメラから少し離れた美月は、いつもの制服姿ではなく、やや大人びたワンピースを纏っていた。彼女を取り囲むのは、初対面と思しき男子大学生たちだ。


「え、ええと祐ちゃん。よ、よく分からないけれど、人類のために優秀な大学生さんと一緒にいて、話を聞いて欲しいそうです」


 美月はそう説明した後、少し大きな声で付け加えた。


「別に遊んでいるわけじゃないからね。裕ちゃんのためだって聞いたからなんだから」


 騒ぎ立てる大学生たちは、ニヤニヤと下心を隠さない笑みを浮かべ、美月を見つめている気がした。


 頭に熱いものが込み上げる中、司令の声が再び聞こえてきた。


「もちろん彼女にお酒を強要したりしないし、ひどいことをしたりなんてもってのほかだよ。我々は政府の機関だからね」


 そう言いつつも、司令の表情には意味ありげな笑みが浮かんでいる。


「もちろん、大学生の方は酔っ払っていても我々が咎め立てすることではないがね」


「な」


「大学生はとある団体の御子息ばかりだから、ちょっとくらい何かがあってももみ消してしまうかもしれない。いや、まさかね。そんなことあるわけないと思うが」


 他人事のように微笑む天野司令に対し、思わず下品な言葉を叫びそうになるのを僕は必死で堪えた。


「や、優しそうなお兄さんたちばかりだから、心配しないでね。裕ちゃん」


 最後に、美月が僕に向かって微笑んだ。いつもの輝くような笑顔ではない。どこか翳りを感じさせる表情だった。


 そのまま映像は途切れた。最後の瞬間、大学生の一人が美月の肩に手を回したように見えた気がする。


「フラグみたいなこと言うなぁぁぁ!」


 思わず、そんな叫びが僕の口をついて出た。


 その瞬間だった。


 僕の乗るガーディアンの周囲に、不思議な光が放たれ始めた。まるで、僕の感情に呼応するかのように、ガーディアンがパワーアップしていくのが分かる。


「すごい出力上昇です!」


 博士の興奮した声が、通信機から聞こえてくる。


 だが、僕には博士の声など耳に入らない。頭の中は、美月のことでいっぱいだ。


 一刻も早く、この怪獣を倒して、美月のもとに行かなければ。


 そう決意した僕は、ガーディアンを全力で操縦した。


 甲殻類の怪獣の攻撃をものともせず、鋭い爪を受け止めた。


 そのまま、ヒートブレードを振るう。


 まるで、怒りに燃える僕の感情そのものが、ブレードに乗り移ったかのようだ。


「えっ、なんでブレードの出力もあがるの?」


 博士も驚いていた。博士が理解できないことを、僕が分かるはずがない。


 考えるのをやめ、甲殻類の怪獣に突き刺したブレードを引きずりながら、そのまま切り裂いていく。


 次に、ライフルを巨大で黒い方の怪獣に向ける。


 ライフルの威力が上がるはずがない。だが、集中した僕の照準はピタリと合い、正確に怪獣の目を射抜いた。


 すぐさま、もう片方の目も正確に一発で貫く。


 今までにないほどに集中していて迷いがないのが自分でもよく分かった。


 自衛隊の人たちからも称賛の声が上がったような気がしたが、今の僕にはそれに応えている余裕はなかった。


 そのまま、ジャンプすると苦しむ怪獣の首を冷徹に切り落とした。



「美月のいる場所を教えてください!」


 そのまま通信機に向かって叫んだ。


「え?」


「早く!」


「あ、うん。ちょ、ちょっと待ってね」


 今にも暴れ出しそうな僕の剣幕に、井上博士が慌てて調べてデーターを転送してくれる。


 勝利の余韻に浸る間もなく、僕はガーディアンを東京に向かわせた。


 美月がいるのは飲み屋などではなく、ガーディアンの研究施設の一角にある建物だった。ガーディアンを降りた僕の前に、何事かと思って外に出てきた美月の姿があった。


「ゆ、裕ちゃん。よかった。無事だったんだね。で、でもどうしてここに?」


「迎えに来た」


 ぶっきらぼうに言った僕に、美月は少し怒ったような表情を浮かべた。


「だから、別に遊んでいるわけじゃないんだけど」


 腰に手を当てて胸を反らしながら、そう言った。


「いや、大学生と遅くまで飲み会とかよくないから……」


 そんな僕の言葉に、なんとなく美月は察したようだった。


「ああ、私のことが心配だったんだぁ」


 美月はにやにや笑った顔になった気がした。


「いや、そんなじゃないから」


「大丈夫だよ。大学生って、井上博士の後輩で、ちゃんとガーディアンの研究に関わっている大学の研究室の人たちだから」


 美月の後ろを見れば、映像ではチャラそうに見えた大学生たちは、今は服装もかなりしっかりとしていて、よく見れば真面目そうな人たちだった。

 小声で『やるなあ』『頑張れ裕一君』などと言って励ましてくれている。


(いや、その声は美月にも聞こえちゃうから……)


 照れくさい空気の中、僕は天野司令の罠にはまったことを理解した。


「いいから、遅くなる前に帰るよ」


 僕は美月の手を取って引っ張った。きっと、顔は赤くなっていただろうが、少し暗くなっていたのでごまかせたと思う。


 研究室の若い男性たちによる『ひゅーひゅー』と囃し立てるような声が聞こえる。


 コックピット内の明かりで、もうごまかせる気がしない。


「え? ふ、二人で乗るには狭くない?」


 でも、美月はコックピット内を心配そうに見回していた。


「ま、大丈夫か」


 美月はそう言いながら僕の座席の前にちょこんと座る。


 確かに狭い。かなり密着していて、僕は美月の髪のいい匂いをずっと嗅いでしまっているかのようだった。いや、実際いい匂いがしてきてしまうんだけど。


「わあ」


 ただ、美月は僕の息がかかるなんてことは気にしていないようだった。


 低空をジャンプし続けて、夜になっていく街を眼下に飛んでいく。


 見たこともない景色に、美月は目を輝かせていた。


 そんな美月を見ている僕も、人生で今まで一番綺麗な景色だと感じていた。



 美月がそばにいる限り、僕は戦い続けられる。


 そう確信しながら、僕はガーディアンを基地に向かわせて夜の街を駆けるのだった。




―――――――――――――

 放課後、基地に呼び出された僕は、違和感を覚えた。


 基地には、いつもと違う静寂が漂っている。


 普段なら、天野司令と井上博士がすでに待機している会議スペースが、今日は不思議と人の気配がない。


 整備スタッフの姿も見当たらない中、銀色に輝くガーディアンを眺めながら、僕は一人佇み、司令や博士たちの到着を待っていた。


 そんな時、扉が開く音がして、振り返るとそこにいたのは可憐な少女だった。

 戸惑ったままで固まっていると、すぐにそこ娘は僕に駆け寄ってきた。


「はじめまして、岩瀬先輩」


 長くなめらかな黒髪に、クリっとした大きな瞳。先輩と呼ばれたが、この辺では見慣れないセーラー服の制服から、別の学校の生徒だと分かった。


「4号機パイロットに任命されました。朝倉結実です。よろしくお願いいたします」


 敬礼しながら、彼女は真摯な表情でそう告げた。


「4号機? いつの間にか他にも二人いたの? ……いや、そんなことより、もしかして、君は『ゆみみ』?」


 僕は驚きを隠せずに声を上げる。間違いない、彼女は拓が熱狂的に応援しているアイドルグループ、スタトリのメンバーだ。


「はい。この間は助けていただき、ありがとうございました」


 朝倉結実は、真摯な眼差しで僕に頭を下げる。


「いえ、こちらこそ。ゆみみ……朝倉さんのおかげで、被害者を最小限に抑えられたんだから」


 県民ホールに最後まで残り、観客を誘導していた彼女の姿が脳裏に焼き付いている。


 もし彼女がいなければ、拓も危険な目に遭っていたかもしれない。


「いえ、先輩こそ、あの時の身を挺した行動は尊敬に値します。誰にでもできることではありません」


 最近、マスコミから批判ばかり浴びせられていた僕にとって、直接感謝の言葉を聞けることは、本当に嬉しくて、思わず目頭が熱くなる。


「どうぞ、私のことは『ゆみみ』と呼んでくださいね」


「え、いや、基地ではそれはちょっと……」


 アイドルだということもあるけれど、あまり基地内で馴れ馴れしくするのは控えたかった。


「では、『結実』とお呼びください」


 意外と押しの強い彼女は、真っ直ぐ僕の目を見つめながらそう言った。


「分かった。『結実ちゃん』……だね」


「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いしますね。『裕一先輩』」


 それで納得してくれたようで、結実は眩しいほどの笑顔を見せた。


「そういえば、天野司令から命令を承っています」


 結実ちゃんは、さっきまでの可愛らしい笑顔から一転、真剣な表情に変わる。


「え?」


「命令です……目を閉じてください」


 その言葉に、僕は思わず固まってしまう。


 敬礼しながら真剣な面持ちの結実。何か特別な命令が下されたのだろうか。


 (なんだろう。東京までガーディアンで飛んでいったのは、さすがにやりすぎだったかな。でも、この娘に叱られるのなら、悪くないかも)


 そんなことを考えながら、僕は素直に目を閉じた。


「命令なのは本当ですが、これは助けていただいた私からお礼の気持ちです」


 結実ちゃんの言葉と同時に、僕の頬に柔らかな感触があった。


「え?」


 驚いて目を開けると、結実ちゃんの顔がすぐ目の前にあった。


 頬にキスをしてくれたのだと、僕は理解する。


 その瞬間、扉が開く音が響いた。


 入ってきたのは、天野司令と井上博士。


 ……そして美月と拓だった。


「え? 美月と拓」


「裕一、何してるの」


 美月と拓は、目を見開き、表情を強張らせ、肩を震わせている。


 (しまった……!)


 四人から見れば、僕と結実ちゃんがキスをしていたように見えただろう。


 だが、天野司令は顔色一つ変えずに言った。


「いやあ、ついに戦力の補充ができたよ。今まで裕一君一人に負担をかけてしまったからね。改めて紹介しよう。こちらは、4号機パイロットの朝倉結実さんだ」


 司令は、僕と朝倉さんの方に手を向けて紹介した。


「よろしくお願いします」


 なぜか僕にぴったりと寄り添いながら、結実ちゃんは敬礼した。


「そして、裕一くんとは旧知の仲だと思うが……こちらが2号機と3号機のパイロット、桜井美月さんと斎藤拓さんだ」


 司令は今度、横に手を向けて紹介した。


 美月と拓は先ほどからの強張った表情のまま、結実ちゃんを真似してぎこちなく敬礼を返していた。


 僕たち四人の間には、微妙に緊張した空気が漂っていた。


 美月は明らかに、結実ちゃんを『誰よ、その女』という目で睨んでいる。


 一方拓は、『どういうことだ。いつの間にゆみみと仲良くなったんだ』という疑いの目で僕を見ていた。


 そんな中、井上博士がタブレットと美月たちを交互に見ながら、興奮気味に報告した。


「お二人とも、今この瞬間、素晴らしい出力を出しています! すごいです。計測不可能なほどです」


 満足そうにうなずく天野司令と井上博士の顔を見て、僕は再び天野司令の罠に嵌められたことを悟った。


(誤解を解かない方がいいのだろうか……)


 僕はこんな感情が、世界を守るのに必要だなんて思いたくなかった。


 心強い戦力を得たことを喜びつつも、これからの戦いに複雑な思いを抱かずにはいられなかった。


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絶対防衛線のNTR部隊 風親 @kazechika

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