母、58歳にして美に目覚める。
ハナビシトモエ
ピアスを開けようと思うの。
「私、ピアス開けようかなって思ってさ」
幼少期から刺青や美容整形や金髪は親から貰った体に傷をつけるからいけないと言われ続けてきた。反発したつもりでは無いのだが、私は髪を染めてみたがあまりにも似合わなくて止めた。
当時の母も黒髪に戻ると安心したようで、もう髪は染めてくれるなと言ったのが二年前。
1965年12月生まれ。母は58歳にして美に目覚めた。
絶対に止めるであろう父は7年前に他界している。
まずは美容整形から始めるそうだ。ほくろを消すに留まらず、頬の骨も削るだろう。自分のお金でやる分には好きにすればいいと思う。
さて本題のピアスである。母の住む地域は田舎なのに車がビュンビュン走る地域だ。近くにピアスのショップもなければ、皮膚科も美容整形外科も無い。
果たして母はどこでほくろを取って、頬骨を削り、ピアスを開けるのか。
パソコンは使えないが、携帯はなんとか使える母はピアスの色を見て「こんなんつけたらどうやろか」と言い、恍惚の表情で携帯を凝視する。
青色だときれいになるかしら、赤だと派手かな、緑も、でも初めてだから地味なのにしようかしら。その様はまるで恋する乙女である。
「あのさ、ピアスってどこで開けるん」
この問いが来たのはピアスに恋焦がれてすぐだった。母の携帯スキルはパソコンよりは比較的使える程度で調べ物の仕方は絶望的だ。ピアスの写真はピアスと検索すれば勝手に出てくるが、ピアス・開け方ではなく「初めてのピアスどこで開けたらいいか分からないのを調べるにはどうしたらいい?」と聞かれたのでそれをそのまま打ち込めばいいと思うよ。と、答えたがパソコンに聞くより私に聞く方が早いと思ったのだろう。
私は母に自分で開けると勇気と安価で済むと説明した。美容整形外科か皮膚科に行くと確実に開けてくれるが、勇気はいらないし、病院だから安心だが高いと言った。どれほど高いか聞かれたが、それは携帯さんに聞いて欲しい。
「えー、高いわ」
母は変化は好きだが、金に関してはケチである。確かに光熱費は払える。高いと言われても私は知ったことではない。そして母は閉所と暗所と高所と痛みに極端に弱い。それがあるので確実にピアスを開けないだろう。
分かっている。血の縁で私も母も変身願望に飢えている。もし派手な装いをしたら人生が少し変わるかもしれないのある意味病気みたいなものだ。
だから、本当に開けた時は驚いた。
「開けました。両耳、カナちゃんも由香里ちゃんも止めときって言ったけど、私の体だし、自分で面倒みようと思う」
両名とも母の大学の頃の友人だ。やはり親から貰った云々の事を言われたらしい。この親の体云々は時代の生んだ価値観だったそうだ。その価値観を乗り越えて一歩踏み出して前に進んだのだ。
今、耳にピアスを添えて仕事をしている。きれいな色ねと褒められると同じくらい客商売なのになめていると言われることもあるらしい。
母、58歳にして美に目覚めた。
母、58歳にして美に目覚める。 ハナビシトモエ @sikasann
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