第5話 淫魔ダッシュ
走った。ひたすらに走った。いや走っている、が正解か。我が妹(淫魔)を追いかけて。
淫魔の行き先は、知っていた。何故かというと、俺の地元は遊び場が限られているからだ。大体人と待ち合わせるか、何処かへ遊びに行くとなると在来線の終点の駅周辺になるのだ。この駅周辺には、一応それなりの数の人がいて、ある程度の商業施設が整ってはいる。因みに俺の家の最寄り駅である「白山駅」からこの終着駅の「蝶楽駅」までは、駅間にして1駅の隣駅に位置する。因みに地元が田舎ということもあってか、在来線の電車が30分に一本しか通っておらず、乗りたいタイミングで電車に乗れないと30分近く電車を待つ羽目になる。
「あいつは確か12時前に家を出たはずだから……」
脳みそをフル回転させて、妹が乗るであろう時間の電車を逆算する。見えた。12時半「白山駅」発の「蝶楽駅」行に乗るに違いない。因みに今の時刻は、12時23分。俺の家の最寄り駅である「白山駅」までは、歩けば15分、走れば10分というなんとも絶妙に離れている。
「クソッ、あと7分しかねぇぇぇ………」
本来なら自転車を漕いで、「白山駅」まで向かえば、まあ間に合う時間帯なのだが、自転車で駅に向かうことが出来ない理由があった。それは、もし妹が俺より先に用事を済まして、帰宅していた場合、俺の自転車が無いことに気が付き、俺が何処かへ出かけていたことがバレてしまい、そこから芋づる式に尾行が発覚するリスクが生じるからだ。そうなることだけは何としても避けなければなるまい。めちゃくちゃ走りながらだけど、意外と冷静な俺。もしかして天才??
冗談はさておき現在猛ダッシュしながら考えてある、我ながら完璧な尾行プランはこれだ。
12時半「白山駅」発「蝶楽駅」行の電車に、必死こいて急ぎ淫魔と共に、乗車する。
そして、絶対に淫魔にバレないように同じ車両に乗り、なるべく近くで淫魔を監視する。
「蝶楽駅」に着いたら、探偵ドラマで得た知見や俺が現在持ち合わせている尾行スキルを駆使して、淫魔の相手の正体を確かめる。
淫魔が本日の用事を済まし、帰宅して完全に寝た後に俺はこっそりと帰宅して、家族の誰にもスーツ姿を見られることなく就寝する。
んん。完璧だ。思い付きで妹に欲情している割には、割としっかりした計画と言えるだろう。まあ、全て事が計画通りに進めば、の話ではあるが……。(フラグをたてるんじゃないよ!)
走りながら、スラックスの右ポケットの中に手を突っ込み、スマホを確認する。時刻は12時28分。
「よーし、何とか間に合ったぜ」
気付けば、「白山駅」に着いていた。色欲に正直に全力で走った甲斐があったぜ。
「改札♪改札♪」
安堵からか、気持ちの悪い鼻歌を歌いながら、改札を通過する為の切符を券売機で購入する為に、スラックスの左ポケットから財布を取り出そうと左手を突っ込む。
「あ」
鈍い声が思わず零れる。
スラックスの左ポケットに入れたはずの財布は無く、その中は空だった。
妹に欲情して後を尾けてみたら、絶対に成就しない恋が始まりました。 T村 @poison116
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