第4話 そして冒険へ
クローゼットの中をがさごそと物色してみたはいいものの、今一つこれといった変装服は見つからない。しかし、ゆっくりもしてはいられないのだ。我が妹(エロスの化身)が何処へ出かけたか分からずじまいになり、見失ってしまう。そうなってしまっては、先程までの三種の神器と戯れていた時間や、今のこの変装服を探している時間が全て無に帰してしまう。そうなると結果的に、俺=実妹に欲情しただけのひたすらに気持ち悪い有機物になってしまう。いかんいかん、何としてもそれだけは避けなくては……。
「もう、こうなったら……」
自分でも信じられないくらいに焦っていた。息が乱れていた。まるで発情期の猿の如く。
ドタドタと部屋から部屋を移動し、目的地である父親の個室にたどり着いた。この間、時間にして、約17秒。
「頼む、俺にフィットしてくれ……」
祈るように、父親のクローゼットの扉を開ける。そう、自分の持ち合わせている服では、変装に適さないと判断し、父親の服を借りることを決意していた。とても焦っているこの状況で、少しだけ父親の説明をしたいと思う。結論から言うと、俺は父親の顔を知らない。というか、会ったことが無い。幼少期に母親から軽く話を聞かされている程度で、詳細は知らないが、俺と我が妹(エロ神様)を母親に産ませた後に(いや、言い方大丈夫かそれ)何かしらの事故で亡くなったらしい。母親が言うには、とても知的で母親想いで何より常に笑顔でいるようなとても朗らかで優しい人だったらしい。父親が亡くなっても、母親の意向で父親の部屋は、当時のまま放置されている。しかし、父親に会ったことは無いが、母親の話を聞く限り、今の俺のような不誠実ダメ人間と本当に血縁関係が有るのか疑いたくなるレベルの誠実マンではないのかと、思う。自分で話していて悲しくなるから父親の話はこの辺で……。因みに妹の顔はこの父親似である。
「見つけたぜ、これだこれ。」
父親のクローゼットの中からお目当てのものを見つけた。それはスーツである。黒色のジャケットに黒色のスラックスおまけに様々な色のネクタイがズラリとある。これを着て外を歩けば一目でサラリーマンと分かる服だ。
「頼むぞ。親父、俺に力を貸してくれ……」
恐る恐るジャケットの裾に腕を通す。そして次の瞬間思わずユニコーーーーーンと叫びたくなる気持ちに襲われる。余りにもジャストサイズで、全く違和感なく着ることができたのである。どうしよ、どうしよ、千里ちゃんとんでもなく嬉しい。
さっき仲間に引き入れたサングラスをスーツと合わせ装着し、鏡の前に立ってみる。
「あれ、逆にこの格好目立たないか?スパイかマフィアみたいだぞ」
慌てて少し不安になる。しかし、悩んでいる時間も惜しい。俺はこの格好で妹を追いかけることにした。そして、急いで下の階に移動し髪型をそれっぽく整える。
「準備完了」
「待っていやがれ、ドスケベマン!!!」
誰もいない家の中で、大きく叫び声を上げ、勢いよく玄関のドアを開け自宅を後にする。
さあ、彼は妖艶な妹に追い付くことが出来るのでしょうか。現実に妹がいる世のお兄さん諸君、現実の妹に欲情することなど到底ありえないと思っていることでしょう。だが、そこをどうか温かい目で、千里君の欲情ぶりを見守ってあげてください。私からの切なる願いです。
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