第3話 愉快な仲間たち

 俺は急いで、2階の自室で妹を尾行する手筈を整えていた。これは絶対にバレてはいけない。普段から特段、妹(色欲の悪魔)と仲が悪いわけでは無いが、この尾行がバレたら俺はどうなる?軽蔑されるに決まっている。一生キモがられて、家庭内での立場が無くなり、妹の(推定)彼氏から、殴る蹴るの暴行を受け、グチャグチャにされるかもしれない。しかも、それらが実現したときには、俺が100%悪いので、素直に己の非を認め受け入れるしか無い。スリルとは高揚感と死の瀬戸際に存在するのである。

 尾行をするとしたら、何が必要か、多分変装である。尾行なんて生まれて初めてで、テレビのドラマで見た経験や元々持っていた浅い知識をどうにか絞り出した末の解答だった。

 とりあえず自室のあちこちを散策し、変装に使えそうな道具(なかまたち)を手当たり次第に見つけては机の上に並べ、それらを俺は一時的に三種の神器と呼ぶことにした。


 「メンバー紹介するぜ!!」

 誰もいない家の中で、俺はどこか楽しそうだった。

 「一人目、薄汚れたサングラス!」

 このサングラスは、買ったタイミングを全く覚えていないが、ド〇・キホーテで買ったことだけは覚えている。何を目的に買ったのかは全く覚えていないが。買ってそれ以降、部屋の隅に置いていたままだったので、かなり埃が被っている。手元にあるウェットティッシュで、丁寧に埃を拭き取り、綺麗にする。

 「頼むぜ、相棒」

 サングラスの埃を拭き終えると同時に、サングラスに話しかける。(本当にキモい)

 「二人目、もっじゃもじゃのアフロ!」

 仮装の定番アイテムともいえるアフロ。こちらも何が目的で買ったのかは全く覚えていないが、変装には適しているものであると言えるだろう。ただ、尾行というと素早く物陰から物陰へと移動したり、不意に尾行対象(今回は色欲の魔物)が、こちらを振り返ってきた際に目線を合わせまいとして、靴紐を結ぶ振りをして誤魔化してみたりと、何かと忙しいイメージが強い。そうなるとアフロは、頭からずり落ちてバレる危険性がそこそこ高いと危惧する。

 「今回は不参加で、宿屋で次の招集がかかるまで待機しててくれ!」

 もっじゃもじゃアフロに戦力外通告を告げ、ベッドの方へぽいと投げ捨てる。

 「三人目、最後の仲間、サンタクロースの着ぐるみ!」

 結論から言う。お前はとにかく目立ちすぎる。論外!キ〇ガイ!戦力外!

 最後の仲間については言うまでも無いだろう。生涯お世話になることも無いだろう。

 ただ、これでは余りに可哀想なので、この着ぐるみを手に入れた経緯だけは、説明しておこうと思う。

 俺が小学生の時に、町内会のイベントでボーリング大会が開催され、そのイベントの優勝景品として与えられたものである。このボーリング大会には我が妹(後の色欲の権化)も参加しており、この大会で俺ら兄弟で1位と2位を独占するというワンツーフィニッシュを収めている。因みに色欲の(以下省略)は、2位の景品として、大きめのボーリングのピンのキーホルダーをもらっていたことを覚えている。

「サングラス、俺に力を貸せ。」

 数秒後にユニ〇ーーーーーン!!!と今にも聞こえてきそうだが、今回の尾行ではこのサングラスを用いて尾行することにした。正直かなり心許ないが、無いよりはマシだろうと、そう自分に言い聞かせ、俺ならバレずに遂行出来ると強く思い込む。

 「そうと決まれば、次は服装だ。」

 変装に用いる小道具を決めたので、次はクローゼットの中を物色する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る