村人(モブ)な俺が主人公の覚醒のトリガーとしてに死ぬ為の異世界転生

@ggaa

命の使い道

―人は何故、愛する者の為には自己犠牲すら厭わないのか。

  

これは魔法考古学者、マリンゼル・ヴァンテージが世に遺した言葉。

魔法の本質である魔力元素を発見し、魔法溢れる世界の因子を創るきっかけとなったその男の言葉ボイスを皮切りにその壮大で緻密に制作されたゲームが開始となる。


『進化と犠牲』


それは切っても切り離すことの出来ない因果関係。

歴史に名を残すこともなく、死んでいった彼の者はこう言葉を残した。


ー犠牲のもとに進化があり、進化の下には犠牲が埋もれている、と。


ありふれた日常のなかでさえ、それは誰かの、又は何かの犠牲のもとに築かれた一筋の奇跡。このゲームの主題ともなっているその『進化と犠牲』テーマに沿ったストーリは数多のゲーマを泣かせ、かくいう俺もそのゲームをプレイしたときは何度も本気で号泣した。


主人公プレイヤーが下す数多の選択肢によって、主人公プレイヤー自身がエンディングを創り上げていく選択型RPG。


『サクリファイス・アンド・エヴォリューション』


かの有名なゲーム会社が八年という年数をかけて、そのテーマを追求し、その結果を組み込んだゲームは社会現象となるほどに売れることとなった。

今を生きる全てのものが恩恵を受けているにも関わらず、誰もがふと考えては、気づけば忘れる『進化と犠牲』そのテーマ

因果と比例、その両方の関係を有した結果が組み込まれたそのゲームに俺はあらゆる感情を学び、取捨選択の重みを知ることとなった。

それはゲームでありながら、ひとつの確かな人生だった。

何も考えずにふと選んだその選択によって、未来は変わり、運命は決まる。


力とはなにか。

代償とはなにか。

進化とはなにか。


そして、確かな結果を得る為には何故犠牲を負わなければならないのか。


これらの問いの結果が集約されたゲーム。

そんなゲームの世界に俺は転生したのだ。

始まりは唐突だった。

美しい女神が目の前に現れて、特別な力を授けてくれるわけでもなく、生まれながらにして勇者のような隔離した力を持っているわけでもなく、小さな村で生まれたごく普通の健康男児へと俺は転生したのだ。

そして、この世界での俺の名はセイシャという名を持っている。

ちなみに公式が発表したサクリファイス・アンド・エヴォリューションの主人公の名前は青年だとカイル、少女だとシャネルだ。

主人公は男女ともに黒の髪色と赤い瞳を持った眉目秀麗な容姿をしている。

因みに、ストーリが進むことで仲間に加わる登場人物が女性が多いことから、殆どのユーザーが男主人公を選択するのだが、中には容姿端麗な少女同士の関係を眺めたいという考えを持つ者も一定数はいて、女主人公を選んでいる人もいた。


話を戻そう。

俺の名前が公式が明言した名前と異なることから分かるように、俺がこのゲームの世界で主人公という立場を与えられることはなかった。

そしてこのゲームを何度も周回し、数多のエンディングを迎えた俺はこの現実をすぐに理解した。


与えられた名前がストーリでは触れられることすらない、『村人モブ』として俺はこの世界に転生したのだと。



救いだったのは、俺が生まれた村で主人公とヒロインが育ち、旅立つ時までこの村にいるということ。主人公が宿す勇者の力が目覚めるきっかけとなるイベントが起きるまで、この村でひっそりと暮らす『ベンチュアルの村』の住民であることだった。


俺がこの世界へと転生したと確信した時から、命の使い道は確定している。


それはいつか来る選定の日。

主人公が身をもって『犠牲』とは何かを実感することとなる日。

その選定の日に俺が犠牲となることで、あの最悪な運命という名のシナリオを変えることが出来る。


もう少しだけ、この世界の舞台であるゲームの説明をしておこう。

『進化と犠牲』を主題に置いたサクリファイス・アンド・エヴォリューション。

そのゲームはストーリによっては、簡単に主要人物が死んでしまうストーリだって用意されている。

主人公にとって数多に降りかかる犠牲は試練であり、その苦しみや絶望を仲間と乗り越えながら成長していく。

いわゆる王道展開のようなもの。

これまでに死んでしまった者の夢を、その希望を背負い、悪の権化である『存在』を打ち倒す。

それが『勇者』に与えられた使命であり、運命であった。

勇者が歩む道はどのストーリでも過酷なものばかりで、いくら『進化と犠牲』というテーマが切り離せないものであっても、もう少し主人公とその仲間たちに優しいストーリにしてくれてもいいのではないかと、何度もプレイしながら考えたことがあった。

そして、そう考えていたのは俺以外にも沢山といた。

その証拠に二次創作で描かれる絵や小説はどれも主人公たちが幸せになるものばかりだったのだ。


プレイヤーの情緒を破壊してしまうほどに、それほどまでに主人公が歩む運命は辛いものとなっている。

そして、数多に用意されたストーリ全てに組み込まれた、確定されたストーリが前に提示した選定の日と呼ばれる日だ。

再開や別れを繰り返しながらも、順調に魔王に仕える七つの災い達を討伐していったときの事。

それは暴食を宿した災いと主人公たちが戦うというストーリのときだった。

このストーリは突然と起こるイベントで、その戦いの果てに主人公の真の力が開花される。

だが、これは負けイベントと呼ばれるものだった。

そしてこのゲームの負けイベントとは必ず誰かが死ぬことを意味している。

試練という名の犠牲。

それはヒロインの内の一人が死んでしまうことを指している。

そして鬼畜なことに『犠牲』となってしまうヒロインは主人公と最も共に過ごし、数多のプレイヤーにも人気があった幼馴染となる存在だった。


この場面に流れたムービーは涙腺を崩壊してしまうには十分だったことを思い出す。


そのイベントで『暴食』の災いは戦闘の途中に歴史と共に封印された禁忌の魔法を行使する。


『ベルゼブブの天秤』


それは全てを喰らう唯一無二の構築魔法。

災いが宿す無尽蔵の魔力とこれまで喰らってきた数万の人間の魂を代価にその禁忌の魔法を構築した災いは天秤の器に『勇者の死』という願望を置いた。

そして、その願望を阻止するにはそれ相応に値する代価を差し出すしかない。


ゲームでは、強制的に行われるそのストーリは一人のヒロインの死によって魔法の発動は阻止される。そして大事な存在であった幼馴染の『犠牲』を引き金に主人公の勇者の力が『進化』する。

主人公が覚醒するまでの過程において、それはあまりにも綺麗で、完璧で、悲しすぎるムービーだったのを思い出す。



俺はそのストーリでその『幼馴染』の代わりになるのだと、転生してから心に決めていた。

そもそもモブとしてこの世界に転生してしまった今、どうせならこの命は主人公と、主人公と旅をする者たちの為に捧げたい。

というか、捧げなければならない。

その為には、災いが提示した魔法の代価と対等以上の器を身につけなければならない。

そしてその方法を俺は知っている。

主人公やヒロイン達が宿す特別な力を先天的に宿していなくても、後天的に宿すことが可能な力を得る方法を俺は何度もゲームを周回していたおかげで見つけることが出来た。


「この命はいづれ来る、避けられない運命の為にあるのだと」


青空へと消えていくその声を聴いたものは誰もいない。






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のんびり書いていこうと考えています。

誤字や不自然な言葉等があれば報告して欲しいです。




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