2-12 オコジョの現実
いきなりよばれたのはびっくりしたけど、オレをだっこしてとんで運んでくれたライチョウは真っ白なむねの羽がフワフワだったし、近くをとんでた茶色いハヤブサもイケメンでかっこよかった。いつもは空をとんでるすがたを見上げるだけで、話したことも、こんなに近くで見たこともなかった。前のトリがはばたくと下から風がふいてきたのも、フシギだった。
他にも、すごく頭がいいって聞いたことある、かみも服も真っ黒なカラスや、たまに「火の用心」とか「戸じまりかくにん」で「ウラ」まで見回りしているカルガモもいた。きっと、大人だってこんなに色んなトリと会ったことはない。サインとかもらったら、みんなにジマンできるかな――
のんびり歩くライチョウはオコジョの手をやさしく引き、たまに顔だけふり返って目を合わせてはやわらかくわらう。まるで、ずっと前に見たカンリキョクの
その前に、ユーカイされかけたのも何か言われそう。「もうオニゴッコするな!」とか言われたらイヤだな。もしもの時は、
ん、この部屋に入るのか。
ここまでの通路も真っ白だったけど、この部屋も真っ白だ。テーブルがひとつと、イスがふたつ。何の部屋なんだろう。
「ここへおすわり」ライチョウが手前のイスを引く。
オコジョは
向かいがわにドスンとトリがすわる。ライチョウはとなりに立ったまま。対面したのは、オオワシだった。
と、ライチョウが少し頭を下げて、何も言わずに部屋を出て行く。
行っちゃうの? 声にはしなかったが、心細さを感じて、しめられたドアをしばらく見つめてしまった。
「お前はウラのこどもだな。名前は?」急にオオワシが話し始める。
オコジョは前へ向き直った。「オコジョです」キンチョウした。耳が立つ。
「ウラで生まれたのか」
「うん」
「ウラのどこに住んでいる。家族コウセイは?」オオワシはどっしりとウデを組んだ体せいでしゃべった。
問われるまま、オコジョは住んでいる家の場所を具体てきに答える。それから「家族コウセイ」の意味を聞いて、今は
さっきみんなで話したのに。変なの。
「ネコの
話していると中で「あれ、この話って、
「1人でにげていたお前がさらわれたと、どうして他のこどもは気づいた?」
「えっと、オレの声をウサギが聞いたって、イヌの
オオワシしょ長は「オモテ」の子が「ウラ」にいたことは怒ってないみたいだ。良かったな、
「ウサギか」オオワシは手で目元を覆い、何かなやむようなポーズをする。「ウサギは、ユウカイハンの声も、聞いたのか」
オコジョは少し「うーん」と考えてから答えた。「ニンゲンの声も聞こえてたんじゃないかな。アイツ、すっげー耳がいいし」
「……もう一度聞く。ニンゲンに、さらわれたんだな」オオワシは顔に手をあてたまま。そのため目は見えない。口元は怒っているような形だ。
オコジョはもっとキンチョウする。「はい。黒いヤツの中にひっぱられて……あ、イヌの
「……本当に、ニンゲンなんだな」
「……うん」しょ長は、何を気にしているのだろう。「でも、オレ、めちゃくちゃにあばれて、ガラスに飛び込んだら外に出れたんだ!」
「ニンゲンは何人で、どのようなヨウシだった?」
「えっと、2人です!」また「ヨウシ」の意味が「スガタや形のことだ」と教えてもらってから答える。「1人はオレをひっぱったやつで、体がデカかった! でも、オレの方が強かったね!」
「もう1人は? ウンテンセキにいた奴だ」
ウンテンセキって何だ?
「うーん……あんま見てないけど、デカいヤツよりは弱そうだった!」
「イヌは、ホソオモテで目つきがするどかった、と言っていた」
ホソオモテって何だ?
「
そうだ、思い出した!
「オレ、ネコの
あふれ出てくるままキオクをしゃべったら、その時にムカついたこととイタかったことも思い出す。チリョウもまだのケガがジンジンしてきた。早く終わらないかな。
「ふむ」と言ったオオワシは顔から手を外して、ウデを組んで上を向いた。目をつむって5秒ぐらいゆっくりシンコキューした後、顔を下に向けて、また右手を目元にあてて、何か考えてるみたいにした。と思ったら、さっきより長く息をはく。ため息? イヤなことがあったの?
「……しょ長?」
「もう帰りたい」と言おうとした時、
「よく、覚えているんだな」低い声。
たぶん、ほめられたんじゃない、こわい言い方だった。
顔を上げたモウキンルイは、オレを食べようとするような目をしていた。
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