2-11 オコジョの理想
オコジョの救出から間もなく、警察署長のオオワシが部下を引き連れて到来した。裏の住民の通報を受けて、文字通り飛んできたのだ。
彼は大地を踏みつけるように音を立てて着地すると、
ただし今この瞬間、子供にとって「大きくて恐い」オオワシの目は、野生の猛きん類がするように獲物を選んでいる訳ではない。
「オオワシ署長!」クマが声を掛けた。眼光鋭い視線にひるんでいる様子はない。流石が中学一番の力持ちだ。
「クマ」オオワシは彼を見るや、目をキッと細めた。「こんな所で何をしている」声は低いがハキハキしたしゃべり方。その特徴ゆえに、言葉に怒りや非難の感情が含まれているとすぐにわかる。
「あ、えっと……」いきなり指摘されるとは思っていなかったのか、クマはしどろもどろになる。
オコジョ救出に必死になっていたが、ここは「裏」であり、「表」の子供たちは、「裏」へは行かないよう教育を受けていた。
その時、
「誘拐があったと聞いて、駆けつけてくれたんだッチ!」ネズミがオオワシとクマの間に割って入る。「オコジョがさらわれて、ウサギが『表』まで助けを呼んでくれたんだ。それで、クマが来てくれた。イヌやネコも、そうだッチ!」
さも真実そうに滑らかにしゃべっているが、小柄な少女は声を震わせ、両手でシャツを握り締めていた。
オオワシは彼女の首元を見て「ふん」と鼻を鳴らすと、「そうなのか?」とクマに尋ねる。
「はい! そうです!」頼もしい体くの少年は姿勢を正して素早く答えた。
その傍らのウサギも、まるで耳がうなずいているみたいに肯定する。動物としての天敵を目前にしているだけに、声を出すのは無理そうだ。
「お、オオワシしょ長!」今度は緊張に満ちた固い声が響く。オコジョだった。「来てくれて、ありがとうございます! 大体のことは、ネズミが話してくれた通りです。俺は黒い乗り物に乗ったヒトにさらわれたんだけど、もう大丈夫! イヌのにーちゃんや……ネズミが、助けてくれたんだ!」
全身血まみれで自信満々に「もう大丈夫!」と言う姿はおかしく思えたが、この幼い
どこか相手を探るような目でイヌをにらんだ後、オオワシは「誘拐犯について話してみろ」と重々しく告げる。
イヌは得体の知れない緊張感の中で、目撃した黒い車の情報と、ガラス越しに対じした男の特徴を話した。イヌが一言話す度にオコジョら「裏」の子供も役に立ちたいのか「俺も見た!」だの「俺にはこう見えた!」だのと口を挟んだため、なかなか話が進まなかった。その間、署長はまとまりのない情報の雨を耐え忍ぶように腕を組んで、ジッと子供たちの言葉へ耳を傾けていた。
あらかたの聞き取りを終えた署長は「署で情報を整理した後、管理局と連携し誘拐犯の捜索、警戒態勢を敷くぞ!」と部下へ大声で指示する。周囲で大人らが「おぉ!」と感心そうな声を上げた。
「オオワシさんが言うなら、もう大丈夫だ!」大人の誰かが言うと、他の大人も「もう暗くなるし、帰ろう」と子供へ帰宅を促す。
「お前は、連れて行く」とオオワシ。発言の相手は傷だらけのオコジョだ。男児は自分が呼ばれたことの確認として自身を指差し、相手が黙ってうなずいたのを確かめると「は、はい!」と慌てて警察一行の集まりへ駆けていく。
ケガをしているから、病院にでも連れて行くのだろうか。
自分たちから離れようとする背中へ、ネズミがためらいがちに手をのばした。何か声を掛けようとしたようだが、オオワシのひとにらみを浴びて中止してしまう。猛きん類の視線から逃げるように下を向き、両手でシャツの裾を握り締めた。
一時はどうなるかと思ったが、オコジョを守ることができて本当に良かった。
“こう”することができる幸せを感じながら、
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