1-7 イヌの裏
ツバメの話が、
授業中の居眠りの時に見た、夢の続きだ。
「そう、あなたがやって来たこの場所こそが、
あなたは、これから安全に暮らすことができます。もちろん、自由ですよ。
あ、でも、まだ子供だから学校でお勉強はしますよ?
あと、たまにお医者さんに体を診てもらいましょうね。大丈夫、病気がないか調べるだけです」
「パパと、ママは?」
女性は、一瞬だけ間を置いて答える。
「パパとママは、一緒にはいられません」
相手の顔に気まずい感情が差したのを見逃さなかった。
「帰りたい」
そう言おうとしたが、相手の言葉が早かった。
「あなたの名前も、今日から『イヌ』です」
「え?」
女性は優しい顔なのに、寂しさも不安もわかってはくれなかった。
この日を境に、
大人の決めた安全と引き換えに、ヒトではなくなった。
朝は一人で起きて、アパートの管理人から配給の食事をもらって、学校へ行く。昼食は学校の給食だ。午後に帰宅し、夜の配給をもらうまでは自由時間。学校の宿題をしたり、遊んだり、お散歩したりするが、夜に出歩くと「
両親に会えないのは寂しかったし、どうしようもない気持ちになることもあった。それでも、ここで生きるしかなかったから、色々なことを頑張って覚えて、どうにか生きていた。
やがて友達ができると、「この生活も悪くない」と思えるようになった。
しかし、そんな一筋の光を奪い去るかのように、学校の友達が一人いなくなってしまった。
学校の先生が「一人で行動しないように」と注意喚起し、しばらくの間、大人が昼夜パトロールするようになった。
結局、友達が見つかることはなかった。
「
さらわれたら、どうなるの?
――知らない。とにかく、もう帰ってこないんだよ。
怖い。さらわれたくない。友達にだって、さらわれてほしくない。
どうして、大人は守ってくれないの?
困りごとやケンカを止める警察署のオオワシ署長は?
ゾウ先生も、保健室のウシ先生も……。
「大人の誰にも子供を守れなかった」という現実が、とても怖くなった。
自分は、いつか大人になって、元の世界に戻れると信じていた。
なのに、本当は、いついなくなってもおかしくなかったのだ。
その絶望感が、いつまでも
自分は
僕は、
イヌではなく、
僕の住む世界は、ここではない。
外のことを知りたい。
絶対に、帰りたい。
あこがれは、行動を起こす勇気になった。
リスクを覚悟してツバメの話を聞く理由になった。
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