1-6 裏の歴史
お前たちは、外の世界のことを覚えているか? 家族や親戚、友達のことは覚えているかも知れんな。わしは、子供の頃のことはもう覚えとらんよ。ほっほっほ。
では、自分が
それぞれの思い出があるはずじゃ。うれしかった場合もあれば、とてつもなく悲しかった場合もある。それぞれじゃ。
ん? そうかそうか、ネコは、「最悪」じゃったか。フクロウは、どうだったかね。……ん? もう一度、頼む。……すまん、もうちょっと――おぉ、ありがとうな、アケミ、そうか「悲しかった」か。
探せばきっと、二匹と似た思いをした者もいよう。逆に「最高だった」とかもあるだろう。何せ、
とにかく、
しかし最近は、
理由は、「ヒトではない」と判断されることが、「普通には生きていけなくなる」ことと直結するからじゃ。
お前たちも知る通り、
そして、研究成果を得ようとする者は、サンプル――すなわち
どうした、ネズミ……あぁ、金とは、
だから、
人間の世界では、生きるための金を得られない者がたくさんいる。そのような者らを末端として、悪いことを考える奴らが、
ん? ……おぉ、クマの言う通り、守ろうとしてくれる者はいる。保護団体がな。
だが人間の世界は法律を守らなければならない。
法律というものは難しい。法律はまだ、
人間と見なせば、一方的に殺すことは疑いようのない罪じゃ。
だがケモノとなれば、議論が必要になる。
田畑を荒らす害ジュウは、ヒトの財産を守るために駆除される。今まさにヒトを襲っている動物は、その場で殺される。「何故ヒトを襲ったのか」という理由に関わらず、ヒトの命を守るために殺す。人間の世界で、それは罪ではないのじゃ。人間のルールは、ヒトの命と財産を守るためのものだからな。
では、
それはすなわち、
ユウヤ、お前は誰よりも力持ちで、人間を簡単に殺すこともできるじゃろう。無論、優しいお前がそんなことをするはずがない。何も言わずともイスを用意してくれるようなお前だからな。だが
その時、大暴れしているのがケモノであれば即座に殺して安全確保できる。が、人間だとそうはいかない。特に
そして、そこにつけ込んで、悪い奴らは、今のところ人間ではない
……うむ、アケミの言う通り、急いで結論を出してほしいが、
話を戻すぞ。ともすれば「
人間が労働の義務を果たして生活する中、
知っておるか? 今まさに
おっと、また話が逸れてしまったな。
家族にとっては、肉親を研究材料として明け渡すことになる。嫌じゃな。一緒に暮らしてきて、これからも一緒のはずだったのに。多くの場合、本人も家族や友達と離れるのを嫌がる。実は、将来の夢だって奪われている。想像できないかも知れんが、将来を奪われるということは、とても重大なことなんじゃぞ。
現実として、
……ん? そうかそうか、ネコもそうだったのか。おやフクロウも? ほうほう。あ、いや、フクロウの鳴き声じゃないぞ。驚いていたんじゃ、ほっほっほ。
覚えておるか? お前らは人間だった。
イヌはアケミ、クマはユウヤ。チーターは……そうだな、お前にとっては、チーターが本当だったな。それも良かろう。フクロウはシズカか。静かなシズカ、なんつっての! ……コホン。ネコは、チヒロじゃったか……あ、違ったか、ええと……なに、名前なんて忘れた? ふむ、思い出せないか……何を怒っとるんじゃ。嫌なら無理に思い出せとは言わんよ。ネズミは……おや、お前がチヒロじゃったか、失敬、失敬。
これからも世界中の
わしはお前たちに、大人の押し付ける理想ではなく、現実を知って、考えて行動してほしい。
だから、外を回って情報を集めては、
警備の目をかいくぐるの、大変なんじゃぞ。ほっほっほ。
わしも頑張っているから、お前らは、将来
そして、すべきことを、しておくれ。
おっと、もうこんな時間か。
今日はここまで。
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