1-5 裏の友達
「ツバメじいさん!」
目当ての人物は、裏通りの更に奥まった場所にいた。声を掛けたのはチーターだ。
ツバメは年老いた
「来たな、小僧ども」地べたに座り壁に背を預けていたツバメは、しゃがれ声と共に、手元に放った杖を手に取った。「よっこらせ」
「ツバメー! 久し振りだなー!」ネコが大きく手を振りながら元気に挨拶する。
「おぉ、お前は、チヒロだったかね」
「チヒロって誰だよぅ! アタシはネコだぞ!」
「おや、そうだったか」
「ツバメじいさん、久し振り」
「アケミか! また外の話を聞きに来たのかね」
「はい!」
「俺にも面白い話を聞かせてください」クマが風貌に似合わぬ礼儀正しさで言う。
「ユウヤ! お前さん、またデカくなったか!」
「もっとデッカくなって、みんなを守ってみせますよ!」
「ほっほっほ! それは楽しみじゃの!」
「ツバメじいさん」チーターが遮った。「世間話ばかりしていると、また時間がなくなりますよ」
「おっと、そうだな! ええと、今日は何の話をしようかの」
急かすほど楽しみにしていたのだろうか。
「
「なんだよ、それ! ツバメ! アタシに勝つ方法は駄目だぞ!」
「ネコに勝つには、キュウリか、マタタビとか――」
「駄目だってばー!」
「チチィ!
急に背後から高い声が響く。
イヌ耳でなくても聞こえるボリュームのそれに、一同釣られて振り返った。
「チチィ!」呼ばれた少女は再び鳴いて、細長い尻尾でクルリと輪を描いた。
げっ歯目ネズミ科の
「
「巣の場所は内緒だッチ!」ネズミは意地悪な顔で即答した。大き目の前歯がこちらを威嚇するようにのぞく。
何気ない質問だったが、自分たちが「表」の住人である以上、警戒心の強いネズミにとってはあくまで「よそ者」らしい。
「なぁなぁ、そんなことよりさー」ネコが口を挟む。「ネズミ、美味しそうになったか?」抑え切れずこぼれたような笑顔で、欠け耳をピョコピョコさせた。
ネズミの顔が青ざめる。「お前、第一声で何を言い出すんだッチ!? 野蛮過ぎだ! チチィ!」
こんな時に、怒っている相手に、何を言っているのか。
学校に通っているネコよりもネズミの方が常識人に見える。
「とにかく! お前らうるさいから、どっか行っちまえッチ!」
けたたましいほどの甲高い怒鳴り声が響いた刹那、
上空から何かが襲来しネズミに覆い被さった。
「ぎゃー!!」ネズミがうるさく絶叫する。
イヌは耳を塞いだ。目の前で大声は最悪だ。
「フクロウ!」飛来した影の正体を呼んだのは、ネコだ。「用は済んだか!」
フクロウはネズミの背中に乗ったまま、少し恥ずかしそうにコクリとうなずく。「飛んできた」
「なんで! 着地場所が! オイラの! 上なんだよぉ!」物申すネズミが上体を何度も振ってフクロウを振り払った。
白い少女はバサバサとはばたいて着地する。
と、小首を傾げ、つぶらな瞳でネズミを見上げた。
「ん……」考えるような間を置いてから、答えが紡がれる。「なんとなく、美味しそうだったから」
「おぉ~!」喜んだのはネコ。「やっぱ、そうだよなぁ! フクロウ、味のわかる女だな~!」
「チチィ~! お前ら、意気投合するな!」ネズミは絶望的な顔をして距離を取る。「お前ら、
「いつまでもじゃれ合ってないで、話を聞くぞ!」しびれを切らしたチーターが割って入った。
「じゃれ合ってないッチ! 死活問題だッチ!」
「ネコ、いい加減にしないか!」矛先が変わる。
「チーター、悪かったよう。もうネズミには構わないようにするぞ!」
「言い方が気に入らないッチ~! ……っ!」
猛じゅう上級生が無言でキバを剥いた。そのせいだろう、ネズミは大きく開いた口をキュッと引き結ぶ。
イヌ耳がとても小さい「チュ~」という声を捉え、
「ほっほっほ」ツバメが愉快そうに笑う。「わしにとってはチーターが怒るのも懐かしいが、まぁ、時間もないし、外の話をしてやるかのう」
いつの間にか、クマがどこからかイスを一脚持ってきた。気の回る大男だ。
「ユウヤ、ありがとうな。よっこらせっと」
一同、ツバメを囲むように集まる。
ネズミも興味があるのか輪に加わっている。
「ただ、今回の話は、あまり面白くないかも知れんな。
だが現実だ、しっかり聞くんじゃぞ」
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