第14話
裏門に到着した俺は[探索]を発動するも、黄色い点はどこにも見当たらない。
昨日モンスターを一掃しているため、当然のことではある。
「パパの手をしっかり握って、夢綺渚。それとモンスターが寄ってくるかもしれないから、パパがいいと言うまで静かにしててね」
「パパ、しーっ!」
夢綺渚は自分の口元に人差し指を当てて俺を見上げる。
「そうそう、いい子だ」
「えへへ」
夢綺渚はいつも通り大きく笑うと、慌てて両手で口を塞いで首を振る。
「まだ大丈夫だよ。どうしてそんなに驚いた顔をしてるんだい?」
「パパが怖がらせるからでしょ!」
「でも、本当にモンスターが寄ってきたら危ないからね。じゃあ、今からしーっ!」
夢綺渚は眉を上げてコクコクと頷く。
辺りは静寂に包まれ、俺は引き続き探索で周囲の状況を確かめる。
改めて思うことだが、この[探索]というスキルにはかなり助けられている。
何より夢綺渚を守る上で役に立っているし、発動できなくなると思うと目の前が真っ暗になる。
俺たちは道路を歩く。
昨日、5トントラックでモンスターに突っ込みまくったあの道路だ。
すでにモンスターは一掃され、とても静かになっている。
正面入口の方にもモンスターはいなかった。
こここそ昨日、一番たくさんモンスターを轢き殺した場所だ。
D級モンスターを片付けた後も、F級モンスターが絶えず襲いかかってきたのだ。
昨日の活躍のおかげで、ここまでは無事に通過できている。
俺たちはそのままゆっくりと歩を進めた。
ホテルの敷地を抜けると、あちこちにモンスターが見える。
俺は夢綺渚をモンスタ―の視界に入らないホテルの正面入口に待たせてから、手斧を握りしめて走り出した。
やがて周囲にいたモンスターたちがこぞって俺に向かってくる。
最初に襲いかかってきたモンスターの頭蓋骨を真っ二つに割った俺は、すぐ隣のやつの腰に斧を振り下ろし、その隣のやつには拳を打ち込んだ。
手斧を使わなくても、F級モンスターなら一撃で殺せるのだ。
モンスターの中で最もありふれたF級モンスターは、もはや脅威でも何でもない。
兵隊に兵卒が一番多いのと同じで、F級モンスターはやつらの中で一番多くの割合を占める。
俺は手斧についたモンスターの血を振り払い、すぐさま近くのモンスターたちを誘き寄せる。
それから一斉に襲いかかってきたやつらを片付けた俺は、探索を発動して半径300メートルが安全になっていることを確認し、夢綺渚がいるホテルの正面入口に戻った。
「パパ!」
夢綺渚がまるでスーパーマンを見るかのような眼差しで手を振ってくる。
そんな夢綺渚に人差し指を口元に当ててみせると、彼女は口を両手で塞いで頷いた。
それからも同じようなことが何回か繰り返された。
徒歩での移動には不便が伴う。
ゆっくりとモンスターを誘き寄せて殺し、再び隙を作ってから同じことを繰り返した。
その度に夢綺渚を安全な場所で待たせ、モンスターが片付いたら移動を再開していた。
そうしているうちに日が暮れると、俺たちは休憩を取った。
漆黒の闇の中で探索だけに頼って移動するのは、自殺行為としか言いようがない。
辺りが暗くなってくると、俺たちはその場で夜を明かした。
そのため、1日に進める距離は短かった。
***
途中で遭遇するモンスターはどれもF級ばかりで、それほど経験値の足しにはならず、成長が滞っていた。
そのため、これからは戦闘への参加がますます重要になってくる。
これから神奈川で起きる戦闘のように、モンスターのレベルが分かっている戦場を回りながら、大幅なレベルアップを目指すべきだろう。
半径300メートル以内にいるモンスターたちを一掃し、俺たちは近くのコンビニに入って休憩を取った。
こんな一見無謀に思える行動ができるのは、隠れ身の術のおかげである。
基本的にモンスターは目の前の人間だけを攻撃する習性を持っているが、例外もいるはずだ。
俺がモンスターと戦っている間に、夢綺渚がモンスターに襲われることだってあり得るのだ。
それに、後ろから現れて俺ではなく、夢綺渚に目をつけるやつがいるかもしれない。
探索が使える限り、そういうことが起こる可能性は低いだろうが、万が一に備えておかなければならない。
そしてそこで役に立つのが、この[隠れ身の術]なのである。
夢綺渚のレベルアップを図るのは、彼女の安全が確保できた場合だけにするつもりだ。
今のような状況では多少無理がある。
しかし[隠れ身の術]がある限り、夢綺渚の安全だけは確保できる。
[隠れ身の術]が発動している間、モンスターはこちらの姿が見えず攻撃も通じない。
ただ、こちらもモンスターを攻撃できない。
隠れることはできても、攻撃はできないのである
スキル回数にも制限があるため、今のところ、夢綺渚が危険に陥った場合に備えた保険くらいに考えた方がいいだろう。
俺たちは戦闘と休憩を繰り返しながらゆっくりと移動を続ける。
こうしてまた1日が過ぎていった。
***
グシャッ——!
F級モンスターの頭をかち割って通りを眺めると、そこには有名な洋服屋が並んでいる。
[探索]で確認する限り、洋服屋の中にモンスターはいなかった。
俺は夢綺渚と一緒に洋服屋に入っていく。
回帰前とは違い、今の俺には余裕がある。
ジャケットすら手に入らず、惨めな思いをしていた過去の俺とは違うのだ。
そろそろ冬が近い。
ここで冬物の洋服をインベントリーに入れておいた方がいいだろう。
「夢綺渚、ここで服をもらっていこう」
帰宅できる状況ではなく、持っている洋服は今着ているものだけだ。
いつまた洋服が手に入るか分からないので、今のうちに揃えておくべきだろう。
お店のショーウインドウが完全に破壊され、あちこちにモンスターが暴れた痕跡が残っているものの、洋服はほとんどがいい状態を保っていた。
「本当に?」
夢綺渚の目がキラキラと輝き出す。
「ああ、気に入ったものを選びなさい。いや、気に入らなくても選ぶんだ。この先、こんなお店がまた見つかるか分からないし」
「ヒヒッ、やった!」
夢綺渚は頷くや否や、お店の奥に走っていった。
俺は普段からよく夢綺渚と一緒にショッピングに行っていた。
幼稚園も、小学校も制服はなく、定期的に洋服を買う必要があったのである。
しっかり者なだけに、自分の好みに合わせて可愛い洋服を選んでいたものだ。
とにかくショッピングが大好きな夢綺渚は、目を輝かせて店内のあちこちを見て回っていた。
「これは……うーん」
……
「わあ、これテレビで見たことある!」
……
「これも可愛い!」
夢綺渚は色んな洋服を手に取り、それぞれ比べ始める。
「世界が元通りに戻ったら、予算のことも考えながらそうやって比べた方がいいだろうけど、今はそんな状況じゃないからね。適当に気に入ったものを選べばいいよ」
「適当になんて選べないもん!」
「そうかい。まあ、時間はあるから好きなものを選びなさい」
「うん!」
夢綺渚は頷き、再び手に取った洋服に視線を向ける。
すでに夢綺渚には“インベントリー”の機能について説明してある。
俺の説明を聞いた彼女は、魔法みたいだと拍手をして喜んでいた。
夢綺渚は気に入った洋服を次々と俺の前に持ってくる。
冬支度のために、俺はその中からロングダウンと分厚いジャケットを選んだ。
「パパ、これも!」
夢綺渚がそう言いながら持ってきた洋服は、どう見ても彼女が着れそうなものではなかった。
「これは?」
「パパのだよ。パパっていっつも適当な服ばかり着るから私が選んだの。これ着てみて」
「いや、パパは適当で構わないんだけど……」
「ダメ!今のままでもかっこいいけど、いい服を着たら、もっとかっこよくなるもん!」
夢綺渚は真剣な眼差しでメンズの洋服をいくつか差し出してくる。
「な、なるほど……」
娘がそこまで言うなら仕方ない。
俺は頷き、夢綺渚が選んでくれた服を着てみる。
「パパ、それ全部持っていってね。それと、今着てるのすっごくかっこいい!そのままでいて欲しいな」
「そうかな?」
本当にそうだろうか?
まあ、イケメン俳優にも辛口のコメントをするくらい、ルックスに厳しい子の言うことだし、ここは信じてみよう。
「うん、パパってすっごくかっこいいもん!学校でいつも自慢してるの。パパ、ジャケットも着てみて!」
夢綺渚ははしゃぎながらジャケットを差し出してきた。
学校で自慢をしているというのがやや引っかかるが、そこまで言うなら着てみないわけにはいかない。
俺はまんまと乗せられ、夢綺渚開催のファッションショーに参加する羽目になった。
それからしばらくファッションショーが続き、新しい洋服に着替えた俺と夢綺渚は洋服屋を後にした。
箱根を出発した俺たちは再び戦闘と休憩を繰り返しながら、5日かけて横浜にたどり着いた。
車だと1時間くらいで着くし、徒歩でもその日のうちに着く距離だが、モンスターとの戦闘を繰り返し、夜には移動せず休憩を取っていたため、かなり時間がかかってしまった。
横浜は経由地に当たる。
この街を経由する目的はたった1つ。
武器を手に入れるためである。
神奈川県歴史博物館に攻撃力を大幅に上げられる武器があるのだ。
手斧よりも強力な攻撃力を誇る武器が。
モンスターの時代、回帰したらチートを得た。 今世は絶対娘を守ると誓ったら最強になってしまった話 わるいおとこ @933650
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