第13話
***
そんなわけで、俺は夢綺渚と手を繋いで朝の山を登っていく。
朝の爽やかな空気が鼻をくすぐるのを感じていると、やがて山頂に到着した。
途中で[探索]で確認したところ、この山にモンスターの痕跡は見当たらない。
山の中腹に着いた頃からは、夢綺渚をおぶって山を登っていた。
そこまで疲れた様子ではなかったが、ここで力を使い切るわけにはいかない。
ゲートが開いてモンスターが現れた後、人類はモンスターとの戦争状態に突入した。
各国の軍隊が様々な兵器でモンスターたちに対抗した。
しかし覚醒者以外、誰にもモンスターは倒せない。
やがて各国の軍隊は壊滅し、白い光の出現とともに覚醒者が誕生した。
山頂から都心の方を見下ろすと、その傷跡が鮮明に見えてきた。
都心のあちこちから黒煙が上がっている。
「これがパパが言ってたことなの……?」
黒煙を見つめていた夢綺渚が顔をしかめて言う。
昨夜、大まかな状況を説明していたため、夢綺渚もこの状況をある程度受け入れているようだ。
いくら子供でも、今のこの状況を受け入れないといけない。
ゲートが消えることはなく、生き延びるためには慣れていかなければならないのである。
回帰前、モンスターは世界各地に出没していた。
人口密度の高い地域にゲートが開かれ、全国、そして世界中にモンスターたちはその勢力を拡大していった。
「大丈夫、パパが一緒にいるんだ。パパが元通りの世界にしてみせるさ。パパのこと、信じてるよね?」
「うん!」
夢綺渚は俺の手を握りしめて頷く。
他人にこんな話をしてもバカにされるだけだが、夢綺渚は表情からして、俺のことを心の底から信じてくれている。
そんな夢綺渚の顔を見ていると、彼女の期待に応えられなかった回帰前のことを思い出し、胸が締めつけられた。
「夢綺渚、そこの岩に座ってお菓子でも食べてて。パパは少し考え事をしたいんだ」
「考え事って?」
「これからどうするか計画を立てようと思ってね。だから少しの間、静かにしていてくれるかな?」
夢綺渚が岩に座りながらコクコクと頷く。
片手で口を押さえて頷く姿が愛おしく、しばらく見つめていると、夢綺渚は首を傾げながら声には出さず口の形だけで言う。
おそらく“パパ、どうしたの?”と言ったのだろう。
「いや、何でもないよ」
そう答えて地面に座った俺はポケットから紙を取り出した。
それから上着からボールペンを取り出し、紙に書き始める。
計画とは、これからの方針を意味する。
当然、基本目標はレベルアップをしてS級になることだ。
誰にも屈することなく、どんなモンスターも恐れないS級覚醒者にならなければならない。
そして人々が安全に生活できる居住区を作り、夢綺渚と俺が再び人間らしい人生を送るようにするのが次の目標だ。
そのためには、俺が知っている限りの知識を最大限に活かす必要があるだろう。
つまり、各地域に出没するモンスターに関する情報が必要になってくる。
それらの情報を基に、俺のレベルに合ったモンスターが出没している地域を優先的に回り、様々な作戦を使ってレベルアップを試みるつもりだ。
回帰前の歴史を思い返してみると、D級の俺に合ったモンスターが大量に出没するのは、1か月後に起きる神奈川での戦闘である。
この戦闘を上手いことこなせば、再びレベルを爆上げできるだろう。
1か月後、東京から避難した人々は神奈川に集まる。
そして覚醒者になって1か月が経ち、自分の力を自覚した覚醒者たちが、一般人たちと力を合わせてモンスターたちを相手に防御戦を繰り広げることになる。
ここでモンスターの大軍が出没するわけだ。
モンスターたちの目的は人類の滅亡であり、人間がたくさん集まる場所に大量のモンスターが出没するのはごく自然なことである。
東京を始めとする主要都市を占領したモンスターたちは、その後は全国各地に向けて移動していくことになる。
移動を始めたやつらは自らにルールを設け、兵隊のように動いていた。
まずは下級モンスターたちを尖兵として送り込んだ後、ボスレベルのモンスターたちが行動を始めるのである。
神奈川方面にやってくるモンスターの群れは、多数のF級モンスターとそいつらを率いるC級とD級のモンスターたちで構成される。
やつらは静岡を経由し、名古屋を目的地としていた。
やつの強さを知らずに立ち向かった覚醒者と一般人の連合軍はやつらに虐殺され、壊滅的な被害を受けることになる。
モンスターの群れに一人で飛び込むのは自殺行為であり、高ランクのモンスターが群れの中にいる場合、最悪の結果を招きかねない。
そのため、レベルアップは計画的に進めていかなければならない。
しかし、他の覚醒者たちと合流して戦えるのなら話は別だ。
回帰前、この戦闘で生き残った数少ない生存者たちが話していたのを聞いたことがあり、前後の状況については熟知している。
つまり、俺はモンスターたちの移動経路を始め、あらゆる情報を掴んでいるのだ。
そのため、罠を仕掛けることも、様々な作戦を考えることもできる。
他の覚醒者たちが雑魚を相手している間、俺はボスレベルのやつらと戦い、再びレベルアップを遂げられるはずだ。
彼らの命を救い、レベルアップを遂げ、さらには歴史を変える。
まさに一石三鳥と言えよう。
いずれにしても、俺の最終目標は安全な居住区を作ることであり、そのためには他の覚醒者たちの優位に立つべきだろう。
大規模なモンスターの群れを相手にさらなるレベルアップを図るためには、他の覚醒者たちの助力が必要不可欠である。
それに生存者たちのリーダーになれば、夢綺渚の安全も確保できるはずだ。
回帰する前、低レベルの覚醒者だった俺は、ギルド上層部の無理な命令に逆らうことができず、夢綺渚を命の危険にさらしてしまった。
そんな失敗を二度と繰り返すわけにはいかない。
俺は頂点に立ってみせる。
レベルだけでなく、この世界すべての頂点に。
大まかな計画が決まったところで、まずは例の戦闘場所に前もって移動しておく必要がある。
理想としては戦闘開始の1、2日前に到着しておきたい。
しかし道路は放置された車で埋め尽くされており、車での移動は無理がある。
車を武器として装備した上で、突っ込みながら進んでいくという手もあるが、モンスターの群れに囲まれてしまう可能性もあり、色々と厄介そうだ。
まだ時間は十分あるので、徒歩で移動しながらレベルアップや下準備を進めた方がいいだろう。
「そろそろ下りようか、夢綺渚」
「もう喋ってもいい?」
「うん、いいよ」
「考え事は終わったの?」
「終わったよ。さあ、行こうか」
岩に座って足を揺らしながらこちらを見つめる夢綺渚に、俺は手を差し出す。
そしてすぐに駆け寄ってきた夢綺渚の手を握り、山を下りていった。
やがてコンビニを通り過ぎ、俺たちはホテルの裏門の方に近づく到着した。
昨日、俺が大暴れした場所だ。
[探索を使用しますか?]
夢綺渚を連れて移動する以上、定期的に[探索]を発動し、モンスターの位置を把握しておかなければならない。
もちろん、一人で移動する場合も欠かせない行動ではある。
嫌な臭いが秋風に運ばれてくる。
都心に広がった黒煙が風に乗ってこちらまで届いていた。
しばらくこの臭いを嗅ぎ続けることになるが、仕方のないことだ。
慣れるしかないだろう。
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