5-7.魔女の無念は、魔女が晴らす。
「貴族だし、革命軍ともつるんでる。どうしようかって、ミモザに相談したら」
「占った結果、こうすればボロを出す、と」
苦笑いしつつサクラが師を見ていると。
シーラに続いて、ミモザが言葉を引き取った。
「最初から、わかってた、と」
「そもそものきっかけが、その男がこの方を殺したこと、なのです。
我ら
サクラが尋ねると、ミモザは首を振ってから答えた。
そしてミモザはサクラを立たせ、台座の女性に近づく。
彼女はそっと石を撫で、瞑目した。
「我が師よ。遅くなって申し訳ありません」
(ミモザの、師匠? あ、そういえばご両親は〝ブロッサム〟じゃないんだっけ。
別に先生がいたのか……)
「くはっ。私の人生は結局、その陰気な女を迎えたことで最後までどん底、か」
寝返りを打ったマリンが仰向けになって、自嘲気味に言葉を紡いだ。
それ以上動く様子はない。サクラは魔力の流れに注意し、じっと男を見下す。
「どうせ、魔女の占いを当てにして妻に迎えたのでしょう?
そして思うほど役に立たないと、見下していた」
「見てきたようにいいますねぇ。あの女と同じだ。見下しているのはお前のほうだッ」
マリンが寝そべったまま、ミモザを強く睨む。
「私は侯爵だぞ! なのに私を立てず! 逆らうばかり!
石になってようやく黙ったと思ったら! 弟子だと?
どこまで私にたてつけば気が済むのだ!」
身悶えしながら叫ぶマリン。
そこへ、長く盛大なため息がぶつけられた。
「中央貴族らしい権威主義。そういうところも変わらないわね、マリン」
「黙れシーラ! 貴様とてその中央貴族の娘だろう! 行き遅れの年増めッ!
貴族ですらない貴様が、私に口答えするな!」
「何言ってるのよ。私、先代様にダイクロ大公を賜ったわよ? 知らなかったの?」
「……………………は?」
マリンが唖然としている。シーラが半眼で彼を睨みながら続けた。
「まぁ王都じゃ有名じゃないかもねぇ。西方貴族の粛清に伴って、私が取りまとめ役になったの。
領地で言えば、北のヘーゼル大公に次ぐわ。
で。爵位が下のマリンくん。私の言うことなら……素直に聞くのね?」
「ば、かな。私が、女になど!」
「シーラ、こちらの用件を済ませていいですか?」
打ち震えるマリンと、呆れた様子のシーラの間に、ミモザが割って入った。
「ああごめんごめん。魔女団の報復があるんだっけ」
「はい。サリスも、良いですか?」
「ん。我が伴侶・王女ユラに代わって承認します。ダイクロ大公もいいですね」
「OK。やっちゃって」
「承認いただけましたので。では」
「ま、まて何をする気だ!?」
(ほんとよ何する気よミモザ。報復って……このまま殺しちゃう、ってこと?)
流れるようにミモザの言葉が認められ、サクラは少し不安になる。
自分としてもマリンは許せないが、想い人が人間を手にかけるとなると……心がざわついた。
怯える侯爵に向かって、ミモザが一人前に出る。
彼女は両手を真っ直ぐ左右に広げた。
その手の先には、小さく丸い光のようなものが浮かんでいる。
(あれ? この構え、どこかで……)
「遠く東の国には……この口上、めんどくさいですね」
ミモザはさらっと言って、両の手を打ち鳴らした。
「【矛盾成る】」
マリンを、薄い皮膜のような光が覆った。
(は? え? これルティの? なんでミモザが使えんの?)
ミモザの手の中に小さな光の槍が現れ、彼女はそれを無造作にマリンに投げつける。
「これは、いったい!?」
「三大不可能魔法の一つ、矛盾、です。
貴女の世界から、〝死〟の概念を崩壊させます」
(あれ? 実況要らないのかな?)
あまりの展開に、サクラはどうでもいいことが気になっていた。
ミモザの説明は続く。
「我らブロッサム
それまでは、死ねません」
「は? なんだそれは。私を、舐めているのか?」
光の槍が皮膜を貫いて、何かが崩れた……ようだったが。
見た目には、何の変化もない。
魔法がおさまるのに合わせ、ミモザが足元を強く踏んで、鳴らした。
「【
雷光が暗い部屋に走り、マリンに収束。彼は一瞬にして凍り付き――――砕け散った。
だが、粉々になった後。
先の光の被膜のようなものが現れ、彼の体がその中に作り出された。
「……はっ!? 今、私は」
「痛みや衝撃なども、全部残っているでしょう。その状態で、魔女たちを待つがいい」
「舐めるなッ!」
マリンが素早く、印を結びにかかる。
サクラとサリスが、ミモザをかばいに立つが。
マリンは、動きを止めた。その表情が驚きと……絶望に染まっていく。
「――――魔法が、で、ない」
「あなたの生命維持に、あなた自身の魔力を使っています。
死ぬまで、一切の魔法は使えません」
「そん、な」
マリンが呆然と、膝から崩れ落ちた。
「サリス、適当に繋いでおいてください。魔女
「分かりました。宝玉工場も稼働できそうですし、約束通りこの男は預かりましょう」
サリスが快く返事をしたのを見て。ミモザが、なぜかサクラをそっと見てきた。
(……もしかして?)
魔女「全員」とは。
そういうことなのかもしれないと、サクラは思い至った。
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