2-4.弟子がやらかして何かを隠してる
結局。革命軍幹部のアラルドの用向きは、昨日引き渡した元王弟エランの処刑の日程が、しばらく決まりそうにないという報告だった。
ついでに、新顔の紹介という腹積もりだったようだが。
「…………何だったんですかね、あのドラールとかいうの」
椅子に座ったサクラが、ぶすくれた様子で呟く。
ミモザは淑女にあるまじき態度の弟子を一瞥し、見なかったフリをしてカップに茶を注いだ。
「セラサイトは、この大陸で最後まで王家が残っていました。他の国よりもずっと、男性社会の風潮が強い。
女が活躍すると、気分を害する不思議な輩が一定数はいるのです」
ミモザたちとの邂逅を希望したらしい当の少年はどうも、革命の立役者とまで呼ばれるミモザのことが気に食わない様子だった。
さんざんミモザにつき回されたせいか、最後は怯えた顔をしていたが……まだ不満がくすぶっているようでもあった。
「そんな理由ですかね……」
「サクラも知らない顔なのでしょう? 私も知りませんし、怨恨の線は薄い。
そんな理由しか、思い至りませんよ」
納得がいかない様子の弟子の前に、ミモザは丸テーブルを回り込んで、カップを置いた。
焼き菓子の皿とともに自身のカップも持ってきて、ミモザはサクラの隣の椅子を引き出して座る。
「別に今すぐわからなくても構いませんし。
今回で少しの縁が結ばれました。いずれは〝縁の糸〟が、少しずつ情報を報せてくれるでしょう」
ブロッサムの魔女・ミモザ。彼女は人との縁を通じて結ばれる、不可視の細い魔力線〝縁の糸〟から、様々な情報を得ることができる。
とはいえはっきりわかるわけではなく、伝わった内容を整理するために魔女たちは占いを用いる。
カードや水晶等、いくつもの占技を通じて縁の報せを分析にかけるのだ。
「…………どうしました? サクラ」
お茶の香りを味わっていたミモザは、サクラが菓子の皿に手を伸ばして固まっていることに気が付いた。
「あ、や、なんでもない、です……」
罰が悪そうに言いながら、サクラがそろりと手を引っ込める。
ミモザは、思わず目を細めてサクラを見てしまった。
無作法だが、かつての強敵・カトレアとは思えぬ反応に、我が目を疑う思いなのだ。
「そのような思わせぶりな態度をとるくらいなら、遠慮なく食べなさい。
それとも、クッキーはもう飽きましたか?」
「や!? ミモザのクッキーさっくさくでおいしい、し。そんなことはぁ……ふぁいけど」
口調もおかしいし、クッキーを雑に口に放り込んで、あまつさえそのまま喋った。
サクラのあまりの様子のおかしさに、ミモザは背中に汗が流れるのすら感じた。
(絶対何かありますし、しかもかなりの重大事でしょうこれ……)
ミモザにとってサクラは、畏敬を表すべき女だった。
カトレアとして王子の妻の座を巡って争った時は、未来を知るミモザが介入して変化し続ける状況に、常に最善手を打って来た。
サクラとなってミモザに弟子入りしてからは、すぐに頭角を現し、あっという間にブロッサムの技を習得しきった。
そんな彼女が、ここまで狼狽している。しかも……理由を言わない。
サクラが非常にまずいことをやらかしている、とは察する。しかしミモザは、何が原因なのかさっぱり想像がついていなかった。
カップを置いたミモザは、焼き菓子の皿に手を伸ばしながら黙考する。
(先の会話の流れからすると……やはり彼、ドラールのこと?
いえ、確かにサクラと彼の間には〝縁の糸〟がなかった。初対面で間違いない。
だとすると……ん?
さくり、とクッキーをかじる音が思ったより響いた。
ミモザはゆっくりと噛み、数口に分けて食べきってから。
お茶を香りを楽しみつつ、やはり数口飲み。
それから、ため息にならぬように長く息を吐いた。
「………………………………サクラ。なぜあなたから〝縁の糸〟が出ていないのです」
様子のおかしさが一周回ったサクラは、背筋を伸ばして厳かに答えた。
「私にもわかりません。先生」
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