僕の有効活動時間は
水上透明
僕の有効活動時間は
僕の、世間に(社会の貢献に)対して使える労働時間は、有効で効率的な生活をして、死を迎えるまでに、あとどれくらいだろう。
6才の頃、辞書一冊を読了して、そう思った。おばあちゃんのガン手術を知って、すでに将来は外科医になることを目標にした。
僕の有効活動時間はどれだけだろう。
ふとした常に、それを思う。
それを思って箸が止まる。
いけない。タイムロスだ。
僕は箸をすすめる。
適度な食事、適度な運動、適度な睡眠は、必要だ。
そのほかのことについての判断が必要だ。
部活は必要だろうか。
僕の目標には過ぎた運動量だ。
恋愛は必要だろうか。
いけない、いけない、タイムロスだ。
僕には、なにより知識が必要だ。
僕はゆるゆるとした学生生活に、じりじりと焦燥しながらも、インターネットという情報ツールを得て知識欲を満たしながら、大人になった。
そして僕は外科医になった。
生活スタイルはがらりと変わる。
日勤夜勤問わず、常に頭からつまさきまで仕事のことでいっぱいである。
「先生、MRI画像きました。」
「先生、この所見についてはどのように。」
「先生、救急です!」
常に小走り、頭も高速回転。
有効、有効、常に有効活動時間だ。
ああ、有効、最高だ。
「先生、あの患者さんなのですが・・・」
仕事明け、同僚に飲みに誘われる。
「いけない、タイムロスだ。」
「たまには歯車になるのは休んで、友好活動時間でももうけないか?」
「余計なお世話だ。ああ、2分ロスした。」
家でも常に仕事のことを考えたまま。
夢も。
有効活動時間は日常24時間になった。
そうして、
バターン。
ついに倒れてしまった。
いけない。
いけない・・・。
自分が患者になってしまった。
これでは・・・、
「タイムロスどころじゃ無い。価値の無い人間になってしまった。有効活動時間など・・・。」
ぽつり、呆然と病室でつぶやく。
心拍数を測りにきていた看護師があら、と僕に笑いかける。
「脈は活動し続けていますよ。あなたの体はあなたの体の回復に、有効に時間を使っているんです。これも有効活動時間。また頑張ってくださいって言っているんですね。価値が無いなんて自分で終点作ったらだめですよ。」
では、と看護師はカーテンを閉めて行った。
僕は手首を見る。
僕が有効活動するための体の有効活動時間。
そう考えるとふっと心が軽くなった。
まだ終わりじゃ無いんだ。
僕はばふっと頭に手を組み、枕に倒れた。
頭の中ではさいわい自由に活動できる。
僕のこれからの有効活動はどのようにするか、今度はうまくやる。
また有効活動時間の設計を練り始めた。
僕の有効活動時間は・・・。
僕の有効活動時間は 水上透明 @tohruakira_minakami
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