第3話 ラードバス交易所

サルバニーニから大きく離れ、海岸沿いの土地…

荒野が広がる風景から大きく変わって荒れた海が拡がっていた。

そしてその海を見下ろすように存在する港町の一角に、砦のような場所と例の男がいた。


「ドーゾンさん、波が落ち着くのは明日との事です。しかし朗報もコンカーソン大農園が我々に気を使って下さり、更に働き手が欲しいとの事です」

「ぐおっふぉふぉふぉっ、それは良かったです。一時はどうなるかと思いましたよ。商品のケアや食事は万全でしょうね?」

「それはもちろん、ただ商品にお手つきをしようとしたマヌケがいたので…」

「ふぉふぉふぉ、カーマインくんは仕事が早いですねぇ…奴隷はぞんざいに扱ってもいいと言うのはもう時代遅れ、商品は丁寧に扱わなければ価値はありません…」


人間や亜種族を生き物として扱っていない一方、管理を徹底的に行うように命令しているこの男こそ、ジッドに続く二人目の復讐相手であるオークの男こと、ビル・ドーゾンその人である。

一見理知的に見えるが、彼はジッドや様々な手下にあらゆる土地から亜種族や人間を攫っては売り飛ばす外道を絵に描いたような男だ。

オークと言えば粗暴で野蛮というイメージがあるだろうが、近代化が進む今中にはこのように頭の切れる蛮族も現れ始めているのだ。


「さて私は社員の皆さんと食事会がありますから、後は適当に頼みますよ」


そう言いながらドーゾンはまるで王室のように装飾された悪趣味な部屋を後にした。

カーマインと呼ばれたリザードマンはそれを見送る中、何かに気づいたのか彼は窓に視線を移した。


「…?」


そして窓を開け、外を見渡すものの特に異変も見当たらず、気のせいかと思いながら窓を閉めて彼もまた部屋を後にした。

だが彼が気づいた異変は気のせいではなかった、見つけられなかったのはただ遠すぎて気付かなかっただったからだ。


「あいつがビル・ドーゾンか…中々ブチ殺したくなる見た目をしてやがる」


港にある貨物船などの荷物を保管する倉庫の屋根から、砦を覗く怪しい影。

そう、イングだ。


「タイムリミットは一日、さぁて行くか」


イングは屋根から人知れずに飛び降りて港町へと消えて行く。

ここは港町『ラードバス交易所』、ただならぬ雰囲気が漂う怪しい町…


───────────────────────


イングはまず町の様子を調べる為に適当に歩き、旅の者だと偽って住人や店の客や店主へと話し掛け、この町についてを聞き出した。

そして皆、口々にこう言った。


「あんた、早く別の町に行った方がいいぜ」

「ここには長居しない方がいい」

「悪い事は言わないから、目を付けられる前に帰んな…」


彼らの態度を見るに、ビルという男は相当好き勝手やっているのだろう。

自分に地獄を見せた奴らはのうのうと生き延びて全く関係のない人々にも不幸を撒き散らしている。

それが分かっただけでも自身の復讐を完遂したいという思いが強くなって行く。

そして同時に家族や恋人と離れ離れになり、どこかに売り飛ばされるであろう人々も絶対にこの手で救いたいと思っていた。

不幸な人間は自分一人だけで良いと、彼は考えていた。

そうこう考えながら、彼は人気のない路地へと入った時だった。


「お前か?やたらビルさんを嗅ぎ回ってるのは…」


いつの間にか三匹ほどのゴロツキがイングの背後をに立っていて、全員ホルスターに手を掛けていた。

定期的に舌を出し、細長い瞳孔と鱗がびっしりと生えた特徴的な彼ら。

そう、リザードマンだ。


「さしずめ賞金稼ぎか、はたまた奴隷共の身内

か…」

「ケケ、関係ねぇ…こいつも適当に痛め付けて商品にしちまおう。見たところエルフっぽいしな…高く売れるぜこいつは」

「うーん?エルフかこいつ?肌が紫色だしドラウじゃねぇか?」

「どうでもいいぜ、どうせ売っちまうんだから」


彼らはイングが何者かなんぞどうでも良く、とにかく死なない適度に痛め付けて奴隷にしようとしか考えていない。

恐らくこうして旅の人間やこの港町の人間をビルの元に届けているのだろうと簡単に推察できる。

だが寧ろこれはチャンスであった。


「クク…三人で囲わないと満足に人攫いも出来ないのか…」

「なにぃ?」

「ちょうどいい、俺の気が変わらん内に教えてもらおうか…奴隷にした人達はどこにいる?」


と聞くが、ゴロツキ達はへらへらと笑ったまま答えようとはしない。


「ケケケ、こいつ強気だぜ?」

「なぁに直ぐにそいつらの元へ送ってやるよ…世にも珍しいドラウの石像にしてなぁ!!」


とゴロツキの一匹が合図をするように大声を出した瞬間、残った二匹の喉が大きく膨らんだ。

これはリザードマン固有の技、石化ブレスだ!


「ゲギギャーッ!!」


一斉に吐かれたブレスをイングは持ち前の反応速度ですぐに対応は出来たが煙状のブレスを避け切るのは難しかった。

何と彼の利き手である右手が煙に触れてしまい、石化してしまったのである。


「しまったッ!」

「占めたーッ!!」

「今度は全身を石にしてやるぜ!!」


再びブレスを吐こうと三匹一斉に喉を膨らませたが、流石に二度も同じ手は食わんとイングは行動する。

彼は左手で腰の右に着けたホルスターからリボルバーを抜いた。

これは中折式で八の字に割る事で装填する事が出来る銃で、リボルバーとしては比較的速めに弾を込める事が出来るのが強みである。

そしてこの銃特有の強みを今発揮されようとしていた。


「氷結のアイスストーム!」


彼は呪文をシリンダーに掛け、中折れした銃身を元に戻してリザードマン達ではなく地面目掛けて撃った。

そして、着弾した瞬間シリンダーを通して弾丸に込められた氷結魔法が爆発するように炸裂したのである。


「ゲェーッ!?こ、こいつは…ダメ…」


爬虫類型の亜人は氷結魔法に特に弱い、その為氷結魔法をモロに浴びたリザードマン達は冷気を浴びた途端一気に動きが緩慢になり、やがてバッタリと倒れた。

シリンダーや弾丸のような小型の物と、そのまま魔法を発動するのでは威力は後者の方が圧倒的に威力はあるが、動きを悟られると発動する前に攻撃をされる可能性も高い。

なので銃弾やその他の物に魔法を掛け、不意打ちのように使う例も少くないのだ。

それに特定の魔法に極端に弱い種族ならば通常より劣るとしても動きを止めるのには十分であった。

しかし…


「クソッ、石化が治らん…!」


イングは三匹のリザードマンの動きを封じたものの、魔法由来ではなく生物の体内で生成された物を吐きかけられたせいで利き手の石化は解除されなかったのだ。

魔法を使うには精神集中が必要で、術者を行動不能にすれば身体に影響を及ぼす魔法も自然と治るがこうなると薬や別の魔法による治療が必要になってくる。


「早くここからずらからねぇと…」


彼には状態異常を治す手段が無く、早く何処かで治療か何かを買わなければならないのだが、騒ぎを聞き付けたのかいつの間にか…


「この辺か?」

「おいおい、銃声なんていつもの事だろ…」


また二匹、別のリザードマンがやって来たのである。

路地から銃声が聞こえたからか、それとも何となくやって来たのかまでは分からないが非常に悪いタイミングでやって来た二匹に対し、イングは舌打ちした。

そして更に厄介な事に…


「ん?おい!誰か倒れてるぜ!」

「え?ホントだ…あいつがやったのか?」


彼等は倒れた三匹とイングを見つけ、じっと観察するように見て来たのである。

イングは最悪の事態を考えて再び銃を握り込んだ、その次の瞬間。


「おい、こっちだ!」


左の家から誰かがイングに声を掛け、彼はその方向に顔を向けるとそこにいたのは…


「白エルフ…!」


恐らく空き家であろう家の一階の窓から白い肌と髪が特徴的なエルフが、イングを手招きしていた。


「いいから来い!奴ら仲間を呼ぶぞ!」


イングは声に従い、直ぐにその窓へ飛び込むと白エルフはそのまま彼の肩を掴んで魔法を唱えた。


空間転移テレポーター!」


そしてそのまま、二人はどこかへと消え去ったのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガンズキルゼムオール スティーブンオオツカ @blue997

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ